※クリアカード編ベースの話。ほぼ妄想・捏造で出来ています。

 

 

 

 

 

「主なき者よ。夢の杖のもと、我の力になれ!『固着(セキュア)』!!」
新たな力が、さくらの手の中に納まる。ホッとした笑顔で、カードを見つめた。
この瞬間はいつも、鼓動が大きくなる。カードを追いかけて、捕まえて。『友達』になった。ずっと傍にいてくれた、あの頃のカード達とは違うけれど。
さくらは、新しいカードをぎゅっと胸に抱いて、ふわりと空を飛んだ。
「飛翔(フライト)さん、ありがとう!」
背中でふわりと動いて、さくらの言葉に応える。飛翔のカードはさくらを空へと運んで、そしてまた陸へと届ける。
地上で、こちらを見上げている人達の姿が見えた。嬉しそうに笑ってカメラを構える知世と、活躍を称えるように両手を振り上げるケルベロス。
そして。
(小狼くん・・・!)
小狼は、真っ直ぐにこちらを見つめていた。眉根をぎゅっと寄せて、険しい顔。あれはきっと、心配している時の顔だ。
さくらの胸が、ちくりと痛む。最近は、小狼のこんな表情を見る度に、小さな不安を感じていた。
「さくら。大丈夫か?」
「うん!ほら、新しいカードだよ!」
「・・・ああ。よかった」
心配させないように、さくらは笑顔でそう言った。封印したばかりのカードを見せる。けれど、小狼の視線はさくらの方を向いたままだった。
す、と。その手が、頬に触れる。
「・・・っ!」
「擦りむいてる。ここ。手当しないと」
「まぁ!本当ですわ。さくらちゃん、すぐに学校に戻って保健室に行きましょう」
小狼の横にいた知世が、慌てた様子で言った。ケルベロスはさくらの鞄の中に戻って、「はよ戻るで!」と急かす。
だけど、さくらは動けなかった。小狼の手に触れられた場所が、熱い。向けられる真剣な瞳が、その顔が、思ったよりも近くて。ドキドキしてしまった。
小狼もまた、何かを思案しているのか、難しい顔のまま動かなかった。少し赤くなったさくらの頬に触れて、痛ましい表情で黙り込む。
「小狼くん・・・?」
「あっ。ご、ごめん」
さくらの声に我に返って、小狼は勢いよく手を離した。少しだけ頬が赤くなっているのを見て、さくらの顔もつられたように赤く染まる。
そんな二人を見て、知世は「あらあら」と笑顔でカメラをまわす。
「さくら!はよ戻らんと、先生達に気付かれるで?授業、抜け出してきたんやろ?」
「そ、そうだね!」
さくらは赤く染まった頬を手でぺちぺちと叩くと、走り出した。小狼と知世もそれに続く。
走りながら、さくらは考えていた。小狼の先程の表情を思い返して、また胸が痛くなった。
「あの、小狼くん」
「ん?どうした?」
「あのね・・・」
さくらが言いかけたその時。遠くで、チャイムの音が聞こえた。授業終了の合図だ。
「大変ですわ!授業が終わってしまいました!」
「ほえぇぇ!!い、急がなきゃ!!」
走る速度を上げて、校舎へと向かった。
授業の間、教師やクラスメイトを『転寝(スヌーズ)』のカードを使って眠らせていたのだ。さくら達は、急いで教室に戻って魔法を解いた。幸い、他のクラスの人には気付かれずに済んで、三人は安堵した。
うやむやになってしまったさくらの問いかけに対して、小狼は再度聞き返す事は無く。それぞれの教室に戻っていった。
新しく増えたカードを鞄にしまって、さくらは溜息をついた。

 

 

 

 

 

 

立方センチメンタル

 

 

 

 

 

 

この春、さくら達は中学一年生になった。ひょんなことから、再びカードキャプターになってカードを封印する日々が続いていた。
友達と過ごしたり授業を受けたり。料理をしたり、お菓子を作ったり。そんな普通の日常の中で、突然に不可思議な事が起きる。
小学生の時に、何度も体験した。あれで終わりだと思っていた日々が、また帰ってきた。そんな気がした。
(それに・・・小狼くんも、帰ってきてくれた)
思い出して、かぁ、と頬が熱くなる。さくらは、ベッドの上に寝転んで、枕を抱きしめた。
『さくらカード』が透明になって、魔法が使えなくなった。不安や怖さもあったけれど、ケルベロスもユエも傍にいてくれる。小狼も、力になってくれる。さくらにとって、それ以上に心強い事はなかった。
だから、というわけじゃないけれど。新しい魔法で、新しい杖で。新しいカードを固着していく事は、さくらにとっては『いつかの日々』が戻ってきたようで、少し嬉しくもあった。
この手から遠くなってしまったかつてのカード達も、大事な友達だ。だけど、今新しく集めているカードも、無関係だとは思えない。
突然に起こった不思議な事も、あの夢も。きっと、全部何か意味がある事なのだと。漠然と、そう思っていた。
さくらは、溜息をついた。ぎゅうぅ、と枕を抱きしめて、顔を埋める。
「・・・ちがう。今の、私の不安・・・。カードの事じゃなくて。・・・小狼くん・・・」
その名前を口にして、心臓がドキドキと鳴った。
今日、彼に触れられた頬には、絆創膏が貼ってある。それを指先で触って、さくらはうるさくなる心臓をぎゅっと手で抑えた。
「小狼くん・・・どうして、あんな悲しそうな顔するんだろう?」
さくらは、小狼が時折見せる表情が気になっていた。
最初は、自分の事を心配しているのだと思っていた。けれど、もしかしたら他にも不安があるのかもしれない。知らないだけで、小狼自身が抱えている問題があるのかもしれない。
そう思ったら、居ても立っても居られなくなった。
(小狼くんが何か辛いなら、助けてあげたい。・・・もしかしたら、私じゃ何もできないかもしれないけど。でも・・・!)
この気持ちは、我儘なのかもしれない。小狼を困らせるだけかもしれない。そう思うと、なかなか言い出せなかった。
さくらは今日も、枕を抱きしめたままベッドの上を転がる。尽きない悩みに、ごろごろと転がって呻くさくらを見て、ケルベロスは溜息をついた。
「恋する乙女は大変やな~」
自問自答を繰り返して悩みまくるさくらを余所に、ケルベロスは呑気にゲームのスイッチを入れるのだった。








(決めた!今日は、小狼くんとお話しよう!聞きたい事、思い切って聞いてみよう)
さくらは決心して、学校へと向かった。気合を入れて早起きをしすぎたせいで、通学路には誰もいなかった。犬の散歩をする近所の人に挨拶をして、さくらは学校へと向かった。
校舎が見えてくると、緊張が大きくなった。どくん、どくん。心臓が脈打つのが分かる。
もうすぐ校門に差し掛かる、その手前で。さくらは足を止めて、深呼吸をした。
「私・・・なんで、こんなに緊張してるんだろう?」
思い返してみると、小狼と二人きりで話した事は、中学生になってからは少ない気がした。
小狼が帰ってきて間もなく、不思議な現象が起こり始めて。それから、日常の合間にカードを固着している。さくらは思い出しながら、指折り数えた。
「お花見の時はみんな一緒だったし・・・。二人きりで出かけた時は・・・、途中でカードさんが出て来ちゃったし。でもあの時、お弁当美味しそうに食べてくれたの嬉しかったなぁ・・・!はぅ・・・。でもでも、もっとお話したかった」
植物園にお出掛けをして、お弁当を食べて一緒に過ごして。それでも十分だと思っていたけれど。それでも、時が経つほどに「もっと」と欲張りになってしまう。
小狼が目の前にいて、こちらを見つめられると、ドキドキして仕方なかった。話そうと思っていた事も頭から飛んでしまって、うまく言葉が出なかったりする。
「私・・・前は、どんな風に話してたんだっけ?今は、ちゃんと話せてるのかな。小狼くん、変に思ったりしてないかな?」
考え始めると、どんどん嫌な想像が膨らんでいく。
小狼の目には、自分はどんな風に映っているだろう。あの頃くれた気持ちを、今も変わらずに持ってくれているだろうか。
頭の中をぐるぐると回る不安に、さくらはハッとして頭を振った。
(ち、違うの!小狼くんに聞きたいのはそれじゃないってば・・・!でも、聞いてみたい。聞いてみたいけど、ゆ、勇気が出ないよぉ)
混乱してきた頭を、どうにか落ち着けようと、さくらは深呼吸をした。
その時。
「さくら?おはよう。どうかしたのか?」
「え・・・ほえっ!?」
驚いた。悶々と悩んでいたさくらの前に現れたのは、他ならぬ小狼だったのだ。
小狼の方も、驚いていた。さくらの登校時間よりも随分と早い。もしかして何かあったのか―――。小狼の眉間の皺が、深くなる。不安を感じ取ったさくらは、慌てて否定した。
「ち、違うよ!何もないよ小狼くん!」
「本当か?じゃあ、なんでこんなに早いんだ?」
「そ、それは・・・。小狼くんと、お話したくて」
予想外の言葉が返ってきて、小狼は目を丸くした。
さくらは、小狼の顔が見られずに俯く。まだ、心の準備が出来ていないのに。目の前には小狼がいて、こちらを見ている。さくらの緊張はピークに達していた。
「話って、俺に?」
「・・・うん。あのね、小狼く」
―――ぴぃぃぃぃッ
その時。笛のような高い音が鳴り響いて、さくらと小狼は顔色を変えた。音と共に感じた、魔法の気配。一気に、別の緊張感に包まれた。
「今の・・・!」
「カードの気配だ!」
二人は顔を見合わせて頷くと、校舎の方へ向かって走った。魔法の気配は、どんどん強くなる。
ぽつぽつと登校してくる生徒達は気付いていないのだろう、ただならぬ形相で走っていく小狼とさくらを、不思議そうに見つめていた。
さくらは、人気が無い事を確認して詠唱し、首元にある鍵を杖へと変えた。しっかりとそれを手にしたあと、ふと我に返って、思わず溜息が零れた。
(うぅ・・・。やっぱり、こうなるのかぁ)
いつもこのタイミングで邪魔が入る。ここまでくると、不運すぎて涙が出てくる。宙ぶらりんになった勇気が悲しくて、さくらは密かに落ち込んだ。
(神様は意地悪だ・・・)
「さくら!」
「・・・うんっ!大丈夫!!」
余計な感情を振り払って、気を引き締める。さくらは杖を振るって、新たなカードの力と対峙した。








「ふー・・・。よかったぁ。カードにできたよ」
さくらはホッと胸を撫で下ろして、新しいカードを鞄の中にしまう。駆け寄ってきた小狼へと、笑顔を返した。
(あ・・・、また)
小狼は一瞬だけ、悲しそうに目を伏せた。さくらの無事を確認すると、安心したように笑う。優しい笑顔が、少しだけ曇っている事に気付いたのは、いつからだっただろう。
さくらは、きゅ、と唇を結んだ。そして、小狼へと向かい直って口を開く。
「小狼くん・・・!私ね」
しかし、その時。振り絞った勇気は、またも遮られる。
「あ!さくらちゃんだ!おはよー、何してるの?」
「っ!?・・・お、おはよう!なんでもないよ!」
「?じゃあ、あとで教室でねー」
通りすがりのクラスメイトに声をかけられて、さくらの笑顔がわずかに引き攣る。咄嗟に、杖とカードを後ろに隠した。
幸い、魔法を使っているところは見られていないようだ。けれど、気付けば始業時間も近づき、登校する生徒達が増えてきていた。
小狼は、ふ、と息を吐くと、さくらへと言った。
「俺達も、教室に行くか」
「あ・・・っ、うん」
さくらは、泣きそうになるのを堪えた。こうやって、いつも。何かに遮られたり、邪魔されたりして。近づくチャンスが遠ざかってしまう。
もどかしくて、悔しい。さくらは、小狼の背中を見つめて瞳を潤ませた。
(このままずっと近づけなかったら・・・。そんなの、やだっ!)
さくらは、鞄の中から一枚のカードを取り出した。
「・・・」
「さくら!?」
「私と小狼くんを・・・包み込め!『包囲(シージュ)』!!」
カードから発生した魔法が、小狼とさくらを中心として大きな箱を作り、囲んだ。
小狼は驚いて、周りを見渡す。真っ白で、何もない部屋。カードの力で外界と切り離され、異空間に強制的に移動したような感覚だった。
「さくら!どうしたんだ・・・!?なんで」
「・・・ごめんなさい!」
ただただ驚いている小狼に、さくらは杖を握りしめて謝った。涙目で見つめられた瞬間、小狼の頬が染まる。硬直した小狼へと、さくらは勢いのまま抱き着いた。
小狼はさくらを受け止めると、戸惑いながらもその背中に手を回した。明らかに動揺している様子のさくらを、なだめるように背中を撫でる。
「ごめんなさい。でも、嫌だったの。小狼くんともっとお話したい。もっと・・・一緒にいたい」
一度溢れたら、止まらなくなった。さくらは小狼に強く抱き着いて、想いを口にした。
小狼は驚きながらも、さくらの背中をずっと撫でていた。その手の感触に、さくらの気持ちも落ち着きだす。
「さくら。大丈夫か?」
「うん・・・。ごめんなさい」
「謝らなくていい」
小狼の優しい言葉に、さくらはスン、と鼻を啜って、顔を上げた。
「っ!」
「・・・ほぇ!!」
抱きしめられているのだから、距離が近いのは当然の事。だけど、目が合った途端に二人は赤面した。
こんなに近くで顔を見るのは、再会の時以来だろうか。慣れない近距離に心臓は痛いくらいに鼓動を打つけれど、離れるのは嫌だった。恥ずかしいけれど、目を逸らしたくなくて。お互いに、無言で見つめ合った。
音も、色も。世界の全てから、二人だけが切り離されている。
正真正銘の、『二人きり』。
「・・・包囲の魔法は、時間も遅らせるみたいだ」
小狼は、腕時計を見てそう言った。秒針が一定の場所で震えたまま動かない。
ホッとするさくらに、小狼は笑った。
「少し、座って話そうか」
「うん・・・!」
小狼の言葉に頷いた。二人は壁に背中を付けて、並んで座った。少しだけ遠ざかってしまったことが寂しいけれど、言えない。さくらは自分の思考に照れて、俯く。
ふと。小狼の視線を感じて、顔を上げた。
「さくら、何があった?どうしても、俺に話したい事があったんだよな?・・・カードの事か?」
その言葉に、さくらは首を横に振った。すると、小狼は目を瞠って、またも難しい顔で考え出した。
さくらは切なげに瞳を揺らすと、小狼の方へと体を寄せた。ぶつかった肩に、小狼が一瞬震える。上目遣いで見上げて、さくらは口を開いた。
「小狼くんが、何か悩んでるんじゃないかって・・・。私に、言えない事。あるんじゃないかって。不安で、心配だったの」
「・・・!」
「私じゃ、何も出来ないかもしれないけど・・・!少しでも、力になれるなら頑張る!何か不安があるなら、わけてほしいの!」
ずっと、言いたかった事。やっと言えたと、さくらの心は達成感と安堵に満ちた。
そこで、気付く。勢いをつけたせいで、小狼との距離はうんと近づいていた。吐息が触れる程の近さに、かぁぁ、とさくらの顔が赤く染まる。
小狼は、さくらの言葉に驚いて固まっていた。そのあとに、ぱっ、と顔を逸らす。その反応に、さくらはショックを受けた。
しかし。よく見ると、小狼の頬は赤く染まっていて。掌で隠した口元は、笑っているように見えた。
「小狼くん?」
おそるおそる、さくらは聞いた。すると。小狼は、ゆっくりとさくらの方を向いた。
(わ・・・!)
その笑顔は、今まで見たことがなかった。
下がった眉は困っているようにも、切なげに憂いているようにも見えた。だけど、それ以上に。嬉しくて仕方ないと、頬が緩んでいた。
「さくらがそんな風に思ってたなんて、知らなかった」
「小狼くん・・・」
「ごめん。嬉しいんだ。俺が・・・そんな風に思うのはおかしいのに。嬉しいんだ」
彼らしくない不明瞭な言葉を聞きながら、さくらは小狼の表情をじっ、と見つめた。不器用な喜び方が、はにかんだ顔が、さくらの胸を締め付ける。
今、すぐに。小狼を抱きしめたい。さくらは、そう思った。
すると。その気持ちを読んだかのように、小狼が赤い顔で聞いた。
「さくらの事、抱きしめてもいいか・・・?」
「う、うんっ!私も、今同じ事おも・・・」
さくらの言葉は、小狼の力強い抱擁に遮られた。
先程よりもずっと、強い力で抱きしめられている。小狼の腕が、自分を抱きしめてくれている。それが、嬉しくて仕方なかった。
ただ、抱きしめ合う。相手の鼓動を聞いて、熱を感じて。それは、今までで一番幸せな時間だった。
取り乱した気持ちが、だんだんと落ち着いていく。それとは反対に、恋心は高まっていった。
さくらが身じろぎをすると、抱きしめる力が緩んだ。小狼の腕の中から顔を上げて、さくらは聞いた。
「小狼くん・・・私、まだ聞きたい事があるの」
「・・・なんだ?」
小狼はとろけるような甘い笑顔で、聞き返した。その笑顔に思わず呼吸が止まりそうになって焦るが、さくらは続けた。
「あ、あのね・・・っ」
「ん?」
「わ、私の事、今も・・・、い、一番って思ってくれてる、かなっ?!」
声が裏返って、間抜けに響いた。
言ってから、さくらは盛大に照れた。もっと他にいい聞き方があったんじゃないかと、自分で自分に突っ込む。
小狼の顔が見られなくて、目を瞑る。そんなさくらを見下ろして、小狼は溜息をついた。
(え・・・っ、た、溜息!?)
不安になって、目を開けた。
小狼の顔は、耳まで真っ赤に染まっていた。さっきまでの笑顔が嘘みたいに、余裕がない。呆然と見つめるさくらの視線に、ますます動揺は増して。やや強引に、抱きしめられた。
(あ・・・。小狼くんの心臓の音、すごい・・・)
その音を聞いていたら、涙が浮かんだ。自分の音と重なって、大きくなる。
きっと、気持ちは同じ―――。
「そんな、事・・・また言わせるつもりか?結構恥ずかしいんだぞ・・・」
拗ねたみたいな小狼の声が、彼の心音と一緒に耳に聞こえた。小狼の手が、さくらの髪に差し入れられて。覗いた耳元に、吐息が触れた。
「あの頃よりももっと、さくらの事―――」
「―――・・・!」
鼓膜を震わせた声と、聞きたかった言葉に。さくらは涙を一粒零して、何度も頷いた。
小狼の腕時計が、再び時を刻み始めた頃。周りの風景がゆっくりとぼやけて、『ふたりきり』の魔法は解けて行った。










「ほえぇっ!小狼くん、ホームルーム始まっちゃったみたい!」
「さくら、落ち着け。急げば、授業には間に合う」
『包囲(シージュ)』の中は、少しだけゆっくり時間が流れていた。そのおかげで、二人はお互いの想いを確認して、今までよりも距離を縮められた。
しかし。気付けば時間は過ぎて、ホームルームの開始時間を過ぎてしまっていた。
小狼とさくらは、静まり返った廊下を駆け抜けて、それぞれの教室へと向かった。
「小狼くん・・・!あの、今日一緒に帰れるかな?」
「ああ。待ってる」
小狼の言葉に、さくらはパッと顔色を明るくした。「嬉しい」という気持ちが、言葉にせずとも伝わる。
約束ね、と。指切りをして、離れた。小指に、熱が残る。
―――昨日より、今日。今日よりも明日。きっと、もっと好きになる。ずっと、一緒にいられる。
さくらの足取りは、遅刻だというのに軽やかだった。頬は緩みっぱなしで、当分はなおりそうにない。
(小狼くん、大好き・・・)




小狼は立ち止まり、さくらの後ろ姿を見つめた。
「ごめんな、さくら・・・。まだ、言えない事がある。―――でも、俺は」




 

 

END


 

 

 

クリアカード編ベースのお話。「包囲(シージュ)」のカードが出てきた時に、「これはいつでも密室を作ってイチャコラできるやつ!!」と思った阿呆は私ですwいつか話に織り込みたいと思っておりましたw時間云々は捏造です・・・!

原作の方ではまだまだ謎も多く、小狼も眉間に皺を寄せるシーンがとにかく多くて。さくらちゃんがそれに気づいたらなぁ・・・という管理人の妄想と願望を入れ込んでみました。早く原作でもさくらちゃん突っ込んでしまえ!さくらちゃんに聞かれたら小狼も誤魔化したりしないでほしいなぁ。お前は一体何を隠しているのだ・・・!

そんな感じで原作の展開を見守っているわけですが、しゃおさくシーンがあると現金に喜んでます。12月号で空から飛翔で降りてくるさくらちゃんをお迎えする小狼の図が♡♡♡で、今回のお話にも入れてしまいました・・・。まぁネタは旬なうちに!

あとがきがくどくなりましたが、最後にもうひとつ。タイトルがなかなか決まらなかったのですが、包囲のカードが立方体なのでそれにかけてみました。

浮かばなかったら危うく「包囲しちゃうぞ♡」という地獄センスのタイトルになるところでした・・・wよかったw

少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです♪

 

 


2017.11.9 了

 

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