※モブキャラが出てきます。苦手な人は注意。

 

 

 







傍目からは、なんの意図もなくおびき寄せたように見えた。その場所には、綿密なる計算によっていくつもの魔術的な罠が仕掛けられていた。
松葉色の式服の裾を揺らして、小狼は後方に迫る‘人非ず闇’を見据えた。追い詰められたように見せて、その実、追い詰めている。この場所に蔓延っていた闇が一か所に集まり融合し、今、対峙する術者をも取り込もうとしている。無数の矢のように襲い掛かる攻撃を最低限の動きで避けると、小狼は更にスピードを上げて走った。そうして、漸く辿り着く。
第一級の術者であっても、一目見ただけでは気付かないだろう。前日のうちに準備していた。一見何の変哲もない地面に、細かに描かれた魔法陣。小狼が足を踏み入れた瞬間、枯れた大地が鈍い光を発した。その光を受けた小狼は、足を止めて向かってくる闇を真っ直ぐに見据えた。ここまでの経路に仕込んだ術式が、少しの欠片も散らさないように闇をひとつに集束させた。そして今、この場所に張り巡らせた強力な結界により、闇は動きを封じられた。気味の悪い呻き声が、轟音となって地面を揺らす。
『―――・・・――・・・・』
小狼は剣を構え、静かに詠唱を始めた。呼応するように陣が光り、纏う空気が渦を巻いて、風が小狼の服の裾や髪を吹き上げた。
『オ、オオ・・・ッ―――』
闇が苦しみの声をあげて、必死の抵抗を見せる。小狼はそれを強い瞳で見つめながら、更に詠唱を続け、八枚の札を宙に放った。八角を象ったそれが闇の動きを更に抑え込む。
『―――!!!』
音にならないおぞましい叫び声と共に、強大な力が放たれ八枚の札が粉々に破れる。小狼は一瞬目を瞠るも、両足を更に広げて重心を置き、詠唱する声を強めた。無数の闇が小狼の力により丸く小さく抑え込まれていく中で、僅かな隙間から飛び出した黒い墨のような手が、一瞬の間に距離をゼロにした。
「―――小狼様!!」
左腕と頬を抉られて、目が覚めるような鮮血が滴り落ちた。援護についていた偉が声をあげ、飛び出そうとした一歩は、主人が片手をあげて制した事で止まる。小狼は尚も詠唱を続け、最後の抵抗に蠢いていた無数の黒い手をそれ以上の力で完全に抑え込む。
「・・・これで終わりだ」
冷たい声が轟音の中、落ちた。取り出した一枚の札は、先程破られたものとは比較にならない程の強力なものだ。小狼は剣を振るって風を鳴らし、構える。
宙に放たれた札に蓄えた魔力が注ぎ込まれた瞬間。闇に染められた大地は、強大な雷撃により分断された。
「―――雷帝、招来!!」

 

 

 

 

 

君に会いに行く










「さすが!さすがと言う言葉しか出てきません。私どもは映像で見させていただくしか出来ませんでしたが、ご当主様のさすがの御力、あれでは悪霊も為す術なく滅びるしかないでしょう。いやぁ、素晴らしいものを見させて頂いた!」
大柄な男が両手を叩き、高らかに笑った。
装飾過多の煌びやかな部屋は、少々居心地が悪い。しかしそんな胸中はおくびも出さずに、小狼は依頼主の男に会釈をした。腰を下ろした小狼の横で、偉が甲斐甲斐しく手当てをしている。血をしみ込ませたタオルを何枚も傍らに捨て、血止めの薬を塗りこむ。見ている方が顔を顰めたくなる程の痛ましい怪我だったが、当の本人は顔色も変えずに、男へと言った。
「あの土地は浄化しました。闇は一掃されましたが、大地が元に戻るには長い年月がかかります。祓ったばかりの場所はいわゆる『聖域』となりますが、それは逆に悪いものを誘い寄せる場所にもなり得ます。予め強力な結界を張りました。ふた月は、誰も立ち入らないようにしてください」
「ええ、ええ。わかっております。ところで、もう日も暮れます。是非、屋敷に泊まっていらしてください。手厚い歓迎をお約束します。李小狼様」
「いや。今日はこのまま帰ろうかと」
「お怪我もされているようですし、ここは市街地からもかなり離れております。大事をとってお休みになられるのがよろしいかと思われますので、是非。はい、是非に・・・」
依頼主の言葉に、小狼は傍らにいる偉を見た。偉は包帯を巻きながら、深く頷く。この怪我の状態を鑑みて、長距離の移動は避けた方がいいという判断だ。小狼は内心で舌打ちしたくなるのを堪えて、穏やかな笑みを顔に張り付けた。
「では、お言葉に甘えさせていただきます」
香港の中心部からは離れた山奥に、『陳(チャン)』の屋敷があった。李家には及ばないがそれでも敷地面積は広大であり、煌びやかな装飾品や家具―――少々趣味は悪いが―――を見れば、この土地の名士である陳の力を垣間見る事が出来た。
(今夜にも帰るつもりだったのに。痛い失敗をした)
小狼は怪我を負った左腕を見下ろし、溜息をついた。『痛い』のは傷よりも、今夜以降の予定が先送りになった事だ。少し無理をしてでも、仕事を終わらせて朝には日本に帰ろうと思っていたのに―――。
憂鬱な溜息を吐きながら、部屋のベッドに体を横たえた。依頼主が『この屋敷で一番』だとしきりに豪語していたスイートルームだったが、その広さも景観も今の小狼には全くの無駄だ。沈み始めた太陽が部屋の中を朱く染めていく。
小狼はいつの間にか、眠っていた。






―――コンコンコン
近付く人の気配と控えめなノックに、小狼は瞬時に目を開いた。
「はい」
「失礼してもよろしいでしょうか」
若い女の声だった。小狼は顔を顰めながらも、了承する。開いた扉の向こうで、深々と頭を下げる女がいた。小狼はベッドに腰を下ろしたまま、じっ、と相手を見つめる。その視線を受けて、女は頬を赤く染めて視線を下に落とした。
「父に言われて、小狼様のお世話に参りました。陳紅花(チャン・ホンファ)と申します」
「そうですか。あなたが陳氏の・・・。お気遣いありがとうございます。手当は済んでいますので、大丈夫です」
定型の断りの言葉を、当たり障りのない表情で口にする。紅花はその言葉を受けても、部屋を出て行こうとはしなかった。恥じらう素振りを見せながらも、その足は大胆に小狼へと近づく。
「包帯だけでも代えさせてください。今夜、おやすみになる前に」
見ると、左の腕から血が滲み始めていた。紅花は道具を手に、小狼の前へと跪くようにして頭を垂れた。小狼は深く息を吐くと、「頭をあげてください」と言った。申し出を受け入れると、ベッドから離れた。ソファに座ると、その隣に紅花が座る。
介抱の間は、しばらく無言が続いた。包帯を解き、べったりと血で濡れたガーゼを目にして紅花は顔を青くする。しかし気丈にそれに手を伸ばし、おそるおそると言った手付きで処置を進めた。
(こんな屋敷に住むお嬢様だ。傷の手当なんて、した事はないだろうに)
おそらく、血の気に触れる事だってそうそうないだろう。見るからに無理しているのは分かっていたが、小狼は何も言わなかった。拙い手当。震える指先を見つめていると、紅花が小さく言った。
「小狼様は、本当に勇敢なお方なのですね」
「・・・?」
「父といっしょに映像を見させて頂きました。あのような・・・おぞましい、化け物と相対し、こんな酷い傷を負って・・・このお仕事を生業とするには、相当な胆力とご覚悟が必要なのだと。父も言っておりました。私は、あなたのような人を他に見た事がありません。今も、とても・・・。言葉にはならない想いで、胸が詰まりそうです」
新しい包帯を巻いて、留め金で抑える。手当を終えて、紅花はホッと息を吐いた。
そして、何かを決意したように拳を握りこみ、顔を上げた。涙で瞳は潤んで、頬は赤らんでいる。熱を孕んだ視線を受けて、小狼は眉を顰めた。
紅花は淑やかに身を寄せると、小狼の手に自分の手を重ねた。
「私に・・・小狼様を、癒す事が出来たらと思いました。お怪我だけではなくて・・・、心も体も。私をお傍に置いてはいただけませんか」
「・・・紅花様。それは出来ません」
紅花の言葉に、小狼は一切の迷いを見せずにそう返した。紅花は涙を浮かべて、ふる、と首を横に振る。そうしてさらに距離を詰めると、小狼の手を自分の胸元へと誘導した。手の甲に触れるやわらかな肉感に、小狼は表情を変えないまま、もう一度言った。
「紅花様」
「小狼様・・・!」
紅花の白く細い手を、小狼の手が強く握る。紅花は許されたと思ったのか、頬を染めて嬉しそうに微笑んだ。しかし。小狼はその手を戻させると、呆気なく体を離し、ソファから立ち上がった。
向けた背中に拒絶の意を込めると、紅花は顔を覆った。すん、と鼻を啜り、涙声で言った。
「どうして・・・。私では、何が足りませんか?」
「・・・傷ついて、怖い思いをする事になります」
「!私なら、平気です・・・っ!小狼様」
紅花は立ち上がり、小狼の正面へと回って抱き着いた。
衝撃で、ずきりと傷が痛む。小狼は一瞬顔を顰めたあと、自分に抱き着いた華奢な女の肩を、ぐっと掴んだ。顔を上げた紅花は、至近距離に迫った小狼を真っ直ぐに見つめて、艶めいた視線を送った。
しかし。
「―――!?」
向けられた眼光に、紅花は表情を一変させた。全身が震えて、寒くもないのに肌が粟立った。カタカタと鳴る奥歯を、ぐっと噛みしめる。肩を掴んだ小狼の手を、あんなに欲しがっていたのに。今は、振り払って逃げ出したくて堪らない。なのに、体が硬直したように動かないのだ。
獰猛な獣の爪に腹を抑えられ、鋭い牙で首筋の肉を食いちぎられる。そんなイメージが、紅花の脳内を駆け巡った。
「今日は特にやめておいた方がいい。血の匂いで、気が立っていますから」
「・・・あ・・・・・・。わ、わかりました」
「お気遣いありがとうございました。紅花様」
すっ、と肩から手を離すと、紅花はその場に座り込んだ。力が入らない体をどうにか動かして、逃げるように部屋から立ち去った。少し前にこの部屋を訪れた時の、優雅さや可憐さはすっかり消えてしまっていた。
小狼は深く深く溜息をついたあと、ソファにどかっと座った。
すぐさま扉がノックされ、確認しなくてもそれが誰か分かっていた小狼は「入れ」と不機嫌な声で言った。
「失礼します。小狼様、申し訳ありません」
「・・・偉」
「止めきれませんでした。紅花様と陳氏の熱意に負けまして。この偉の力不足です。申し訳ありません」
「道理で、しつこく引き止めるわけだな。・・・もういい。予測していた事だ。とりあえず、これを直してくれないか」
十分に留めなかったせいで、だらんと緩んでしまった左腕の包帯を突き出した。偉は頷くと、小脇に抱えた救急箱から素早く替えの包帯とガーゼを取り出した。
何度目かの重いため息が零れ落ちる。小狼は左腕を偉に預けて、頬杖をついた。
―――なんでわざわざ、今日の日に限って―――。
顰めた顔。眉間の皺を意識する。その場所をツンと突いて、「また眉間に皺が寄ってるよー」と笑う大好きな彼女の顔が、浮かんだ。一層、恋しい気持ちが募った。
「小狼様、お待たせ致しました。気になるところはございませんか?」
手当を終えて、偉が一歩下がった。違和感のなくなった左腕を見て、さすがだと感心する。「大丈夫だ」と答えると、偉はにっこりと笑った。
「この度の不手際により、小狼様にご心労を与えてしまった事、深く反省致します。・・・こちらは、私のせめてもの陳謝でございます」
「・・・!」
偉が差し出した電話機を、小狼は無言で受け取った。「もしかして」と思いながらも、聞かなかった。先程までの疲労感は嘘のように消える。期待と歓喜で緩む頬を必死に堪える主の顔に、偉は笑みを深くした。
「私はこれで失礼します」と一礼して、偉は部屋を出て行った。扉が閉まったタイミングで、小狼は電話を耳に当てた。
「・・・さくら?」
『小狼くんっ!お仕事、お疲れ様!』
受話器越しに聞こえたその声が、鼓膜を震わせる。自分でも馬鹿だと思う。その瞬間、喉の奥がぐっと詰まった。こみ上げる想いが、全身の血を熱くする。
声を聞いただけで―――幸せになってしまった。
『お仕事で疲れてるのに、ごめんね。大丈夫?』
「大丈夫だ。でも、ごめん。明日の昼には日本に帰る予定だったんだが、少し遅れるかもしれない」
『あ・・・っ。う、うん。大丈夫。今、仕事先のおうちに泊まってるんだよね?』
「ああ」
他愛のない会話をしているだけで、頬が緩む。小狼はソファに横になって、目を閉じた。常であれば、一人で寛ぐ時もそこまで気を抜いたりはしない。だけど今は、何も考えずにたださくらの声を聞いていたかった。
仕事の事をしきりに心配するさくらに、小狼は少しだけ後ろ暗い気持ちになった。先程の不本意な出来事や、左腕と頬に負った傷の事。すべてを言う必要はないけれど、自責の念がずっしりと気持ちを重くする。
「さくら。ごめん。少し、怪我したんだ」
『えっ・・・!大丈夫?どこを怪我したの?』
「左腕と、頬を掠った。大した傷じゃないけど・・・。心配するなって言っても、さくらは心配するだろうから」
『・・・心配するよ。小狼くんが痛いと、私も痛いから。・・・無茶、しちゃだめだよ?』
少しだけ、声が沈んだ。届く声音が小さくなっても、こういう時は殊更にさくらの存在を近くに感じる。零れる吐息や、涙をこらえる僅かな仕草さえも、伝わる。
『今すぐ、小狼くんの傍にいきたい』
「・・・俺もだ。さくらの傍に行って・・・さくらを抱きしめたい」
驚くほどに、するすると素直な気持ちが口から零れた。照れくさい気持ちもあったけれど、それ以上に恋しい気持ちが勝った。
今すぐに会いたい。触れたい。匂いを嗅ぎたい。声を聞きたい。やわらかな肌や華奢な肩を抱いて、一晩中愛したい。
『離れてる距離を無くす魔法があればいいのに』
「・・・さくら」
『何度も、そう思ったよ』
こんなに好きなのに、なぜ離れているんだろう。たくさんの魔法を知っていても、強い魔力を持っていても。大好きな人に今すぐ会いたいという願いは、いつも叶わない。
悔しさに歯噛みする小狼の耳に、さくらの声が届く。
『だけどね。最近、思うの。そういう魔法が使えないから・・・簡単に距離を無くしてしまえないから、恋しく思うんだよね。離れているからこそ、分かるの』
「・・・うん」
『会えなくても、大好き。会いたいから、頑張れる。・・・いつでも会える魔法は使えないけど・・・その代わりに、小狼くんを、みんなを守れる魔法はあるから。すごく幸せな事だなって、そう思うの』
悲観も、絶望もない。さくらの存在は、いつも希望に満ちている。
小狼はゆっくりと目を開けた。眩しいシャンデリアの向こうに、さくらの笑顔が見えた気がした。
魔法が無くても、会いに行ける。会えない時間も、恋しく思う時間も、決して無駄じゃない。
帰りを待っていてくれる人がいる―――。その想いは、確実に自分を強くする。この先も、自分の向かう道を照らす光になる。
「俺もだ。・・・さくら」
『小狼くんも、幸せ?』
「俺は、お前がいれば幸せだ」
電話の向こうで、さくらの動揺する声が聞こえた。「ほえぇぇ」と、いつもの言葉と真っ赤になっているだろう顔を想像して、堪えきれず声を出して笑った。
(早く、会いたい)
明日の朝一番に、李家に帰ろう。報告を済ませたらすぐに空港に向かって、日本に―――さくらが待っているあの街に、帰ろう。
『小狼くん、明日は?明日は何も予定入ってないの・・・?』
「ああ。明日の為に、今日で仕事を終わらせる予定だったんだ。・・・その、自分で言うのも恥ずかしいんだが。明日は、特別な日、だから」
『うんっ!明日は、小狼くんのお誕生日だもん。特別な日だよ。いっぱいいっぱい、お祝いしようね!』
今まで、誕生日は自分の中でそう重要なものではなかった。さくらに出会って、恋をして。生まれた日を、誰よりも喜んでお祝いしてくれるさくらがいたから、その日を特別に思えるようになった。
『あ、でも。他の人も、小狼くんをお祝いしたいんじゃないかな。だって・・・』
「ん?」
口籠るさくらに、小狼は不思議そうに首を傾げた。なんだか、様子がおかしい。耳を澄ませて、受話器の向こうの様子を窺った。
『・・・そのとおりよ。小狼ってば、ほんと薄情もの』
『今までも、私達があんなにお祝いしてあげたのに』
『さくらがいれば幸せなんて言ってるわよ』
『それは確かにそうなんだけどぉ』
―――微かに聞こえた複数の声。嫌というほど聞き覚えがある、その声に。小狼は驚愕の表情で体を起こし、呆然と言った。
「さくら・・・、お前、今どこにいるんだ!?」
『あっ!ば、ばれちゃった?えっと・・・驚かせようと思って内緒にしてたの。実は、さっき香港について、今はお姉様達と』
「香港!?李家にいるのか!?!」
『・・・うん』
なんてことだ、と。小狼は愕然とする。思っていた以上に、さくらは近くにいた。おそらく、姉達の企てだろう。
今日、もしも怪我をしなかったら。陳の申し出を断っていたら。無理矢理にでも帰っていたら。
今、本物のさくらを抱きしめていたのだろうか。
「・・・帰る。今すぐ、帰る!」
『ほえ!?でも、怪我してるから安静にして、明日ゆっくり帰ってきた方が・・・』
「嫌だ!絶対に帰る!!」
子供のように駄々をこねていると分かっているが、どうにも止まれなかった。さくらは電話の向こうで戸惑っているようだったが、言葉の端々に嬉しさが含まれているのがわかった。
「すぐに帰るから。待ってて、さくら」
『・・・うん。じゃあ、私に小狼くんのお怪我の手当させてね?』
さくらの言葉に、小狼は破顔した。
偉を呼びつけると、すぐに現れた。こうなる事がわかっていたように、荷物をまとめてくれていた。完全に見透かされている。
気恥ずかしさを感じながらも、笑顔の偉に感謝を伝えた。

 

「ご当主様、お待ちください。急にお帰りになられるなんて!私どもが何か不手際を・・・それとも私の娘が何か失礼な事をしたでしょうか?」
「いいえ。陳氏にも紅花様にも、お世話をかけました。急を要する大事な用件がありますので、これで失礼します」
引き止める陳に一礼して、小狼は偉が用意していたヘリコプターへと飛び乗った。
少し後ろに、そっとこちらを窺う紅花の姿が見えて、小狼は少し申し訳ない気持ちになる。だけど。彼女に再び会う事も、気持ちに応えてやることも、この先はあり得ないのだ。
飛び立ったヘリコプターの窓から、暗い森を見下ろした。
(魔法があるから、戦える。守れる。生まれた時から決められた、この道を行くのに迷いはない)
頬と腕の傷が、僅かな痛みを思い出させる。包帯の上からそっと手を当てて、目を閉じた。
―――離れた距離を一瞬で飛び越える、そんな魔法はなくても。
(・・・それでも。俺は、さくらに会いにいく)

誰よりも愛しい笑顔と、一番最初に告げてくれるお祝いの言葉を想像して、小狼はこっそりと笑うのだった。

 

HappyBirthday!






END


 

小狼誕生日おめでとう!今年もさくらちゃんとイチャイチャさせよ~・・・と思ったんですが、出来上がってみたらこんな感じにw

李家当主のお仕事的な・・・?こんな風に依頼人に嫁を宛がわれたりとかしてそうだなという妄想を形にしてみました。

なんで誕生日(今日)に!と本人からクレームが来そうですがw書いててとても楽しかったです(*´ω`*)お誕生日おめでとう!

 

 


2019.7.13 了

 

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