※ツイッターであげた超小ネタのログです

上にいくほど新しいです

 

さくらくんと小狼ちゃん

 

※※注意!! 男女逆転のしゃおさ!さくらくんと小狼ちゃんです。なんでも許せる人向け。

 

『クロウカードの封印が解かれる時、この世に災いが訪れる』

(それを止める為に、俺はここに来た。クロウカード、俺が必ず集めてみせる……!)




「雷帝……っ、招来!!」
空から、雷が勢いよく降った。対象の動きを止めたその隙に、『アイツ』が杖を振るう。
「汝のあるべき姿に戻れ、クロウカード!」
具現化した魔法の力が、一枚のカードへと変わる。眩い光の中、杖を持つ少年ーーーさくらの手の中に、カードが吸い込まれるように飛んだ。
「やったー!カード、捕まえたよ!」
「ようやったで、さくら!」
「素晴らしいですわ、さくら君!」
先程まで凛々しく魔法を使っていた少年は、子供のようにはしゃいだ。クロウカードの封印の獣ケルベロスと、魔力はないが理解のある友人・大道寺知世が、一緒に喜んでいる。
それを見ながら、ふう、と安堵の息を吐いて、手に持っていた剣を下ろした。
「……李さん!」
「!!?」
「李さんのおかげで、カード捕まえられたよー!ありがと!」
無邪気に、抱きつかんばかりの勢いで駆け寄ってくるさくらに、小狼と呼ばれた少女は顔を赤らめた。
「ちっ、近い!あと、喜びすぎだ!まだまだカードはたくさんあるんだぞ!」
「うん、そうだね。次も頑張る!……あっ、李さん怪我してる!」
「こ、こんなのは大した事ない」
「ダメだよ!……李さん女の子なんだから!」
普段はふんわりしている癖に、いざと言う時は強引で譲らない。真剣な顔で言われて、小狼は赤い顔で黙る。さくらはポーチから絆創膏を出して、擦りむいた場所に貼った。
「化膿しないと思うけど、あとで消毒した方がいいよ」
「……あ、……と」
「ほぇ?」
「~~~っ、あり、が、とう……!」
耳まで真っ赤になった小狼の、精一杯のお礼の言葉に、さくらはきょとんとしたあとに破顔した。
「どういたしまして!」
そんな、不器用で仲睦まじい二人の姿を、知世はにこにことした笑顔で撮り続けた。
「小娘も、さすが李家の血を引くだけあるな~!女やけど大したもんやで!」
「ふふっ。とても可愛らしいですわ!是非、さくら君とお揃いの衣装を……」
「知世も好きやな~」




(お、俺は!クロウカードを集める為にここにいるんだ!こいつが頼りないから、成り行きで助けてるだけで……別に、深い意味は)
「李さんは、好きな人いるの?」
「えっ!!……お、お前は!?……どうなんだ?」
「え?僕?……えへへ、内緒」
はにかんだ笑顔が、可愛いとか。
時おり見せる、真剣な顔にドキドキするとか。
そんなのは、多分気のせいだ。
顔が熱くなるのも、眠れない夜も、関係ない。アイツには、関係ないーーー。


「本当に食い意地がはってるな。封印の獣として恥ずかしくないのか」
「なんやとっ!お前こそ、男言葉でがさつやないかっ!少しは知世を見習ったらどうや!?悔しかったら『私』言うてみい!!」
「関係ないだろ!!」
小狼とケルベロスの言い争いもいつもの事だったが、この時は熱くなった。額を突き合わせて睨みあう小狼とケルベロスの間に、さくらが割り込んだ。
「ケロちゃん!そんなこと言っちゃダメ!」
「なんや、さくら!こんな男みたいなヤツの味方するんか!」
ケルベロスの言葉に、さくらは珍しく怒って、眉をつり上げた。
「男とか女とか関係ない!李さんは李さんだよ!それに、こんなに可愛いんだから。ねっ」
その瞬間。ぼっ、と。頭から火を噴くみたいに、熱くなった。
「!??!?か、可愛いとか言うな!!俺は、可愛くなんかない!!」
居たたまれず、その場から走って離れた。
ばくばくとうるさくなる心臓の音に、泣きそうになる。
(なんなんだ!なんなんだ……っ、アイツは……!!)





「さくらって、呼んでくれたよね。嬉しい!名前で読んでくれて。前よりずっと、仲良くなれた気がする」
「……っ!」
「僕も、小狼ちゃんって、呼んでもいい?」
名前を呼ぶ響きが、声が、特別に思える事も。思考が全部、目の前の人に持っていかれてしまうのも。
きっと、気のせいだ。何かの間違いだ。
(そう、思いたかっただけなのかもしれない)
一人の部屋。ベッドに座って、剣を掲げる。
クロウカードを集める為に。この世に降りかかる災いを止める為に、ここに来た。
(……俺は、アイツの事が……あの、頼りないけど優しい、アイツの事が……)

『小狼ちゃん!』
『小狼ちゃん、すごいね』
『女の子なんだから、無茶しちゃダメだよ!』
『僕に任せて。ぜったい、だいじょうぶだから!』

「……あああああーーー!!ダメだ!考えるな!!」
壁に、ごんっ、と頭をぶつける。そのあとに、小狼はハッとした。
怪我でもしたら、アイツがーーーさくらが、心配する。女の子なのにって、自分の事みたいに悲しい顔するから。
(男とか女とか関係ないって言ってた奴が、よく言う。……さくらが一番、俺を女の子扱いするのに)
小狼は赤い顔で黙りこみ、ぶつけた額をさすった。


ーーーこの気持ちの正体は、少しだけ胸にしまって。
アイツの傍にいよう。俺に出来るすべてを賭けて、守りたい。
さくらを、守る。
「さくら……」












「小狼くーん。朝ですよー。ごはん、出来てるよー」
ゆるやかに肩をゆさぶられ、目をあける。シャッと、カーテンを開ける音。眩しい光の中で、さくらが笑った。
「今日は珍しくお寝坊さんだったね!ぐっすり寝れた?」
「……ああ。夢、見た」
「そうなんだ!どんな夢だったの?」
問いかけるさくらを、小狼はジッと見つめた。あまりに真剣な瞳に、さくらは戸惑う。
小狼は無言のまま、さくらのスカートの裾をぺろりと捲った。
「!??」
「……女の子、だよな」
「ほぇ!?小狼くん……、寝ぼけてる!?」
「あー、うん……。さくらは男でも可愛かったなって……」
「???」
「なんか、そんな夢」
ふぁ、と伸びをする小狼に、さくらは「そうなんだぁ」と不思議そうに言った。
ごはんの準備してるね、と言って先に部屋を出ていく、さくらの後ろ姿を見つめる。
小狼は、小さく笑った。
(……どの世界でも、俺はさくらの傍にいたい。傍に、いる)


名前を呼ぶさくらの声に上機嫌に返事をして、小狼は寝室を出ていくのだった。






【おまけ】


「ほえぇぇぇ!」
「っ!?なんや、どないした、さくら!!!」
夜中に突然に叫んださくらに、ケルベロスは飛び起きた。何かあったのかと、顔を強張らせるケルベロス。
さくらは手で覆っていた顔を、ゆっくりと上げた。
「しゃ……」
「しゃ!?」
「……小狼ちゃん、かわ、可愛い……格好いい………。ほえぇ……」
「???」
「私、小狼くんが女の子でも、こんなにドキドキしちゃうよ~!どうしよ、ケロちゃん!」

知るかー!と、夜中にケルベロスの渾身の突っ込みが響き渡るのだった。

 

 

2021.1.10 Twitterより

**************************************************************************************

 

 

今年最初の……

 

新しい年になる瞬間。小狼は香港にいて、さくらとは電話で話した。
あけましておめでとう。今年もよろしく。
決まりきった挨拶も、なんだか照れくさくて、こんなにも嬉しい。「冬休み中には帰るから、いっしょに初詣にいこう」と、小狼が言ってくれたので、さくらはその日を楽しみに待っていた。
そして、1月3日。友枝町に帰ってきた小狼といっしょに、さくらは月峰神社に初詣に向かった。









「……ずいぶん長いな」
「ほぇ?何が?」
「熱心に拝んでたから、何を祈ってるのか気になったんだ」
小狼の言葉に、さくらは驚いて、そのあとに赤面した。そんなところまで見られていたなんて。
照れるさくらに、小狼も慌てた。
「すまない。別に、おかしな事じゃないんだ。……何か、熱心に神様に祈る程、心配事があるのかと思って」
「……!」
「神様程、万能なわけじゃないが……俺に出来ることなら、さくらの願い事を叶えたい」
賽銭箱の前で、真剣な顔でそう告げる小狼に、さくらは言葉をなくして固まった。見つめあう二人に、後ろに並んでいた中年夫婦が控えめに声をかける。小狼とさくらはハッと我に返って、謝りながらその場を離れた。
「あ、あのね。祈ってたのは、小狼くんの事なの」
「俺の事?」
「うん。小狼くんがお仕事で怪我しませんように、とか。病気しませんように……とか」
「さくら……!そうだったのか」
おみくじ売り場で、二人を纏う空気がほわわわんと甘くなる。
周囲にいた参拝客は、あらあらと微笑ましく見つめる人、怪訝そうな顔をする人と様々だったが、渦中の二人はお互いしか見ていない。
さくらは顔を赤くして、少し躊躇ったあと、小狼を上目使いに見上げて言った。
「あと……。今年も、小狼くんとたくさん、仲良くできますように……って」
「っ!」
「……たくさんお願い事しちゃった。強欲すぎたかなぁ」
えへへ、と照れ隠しで笑うさくらに、小狼は赤面した。堪らない気持ちになって、人前ということも気にせず、さくらを抱き締める。
そうして、驚くさくらの耳元で、そっと言った。
「今日、これからマンションの部屋に来ないか」
「……え!?」
「藤隆さんと桃矢さんには、許可は取ったんだ。半ば無理矢理説得したんだが……。門限、少しなら延びてもいいって。だから……いいか?」
まさかのサプライズに、さくらは戸惑う。答えられずにいるさくらに、小狼は小さな声で囁いた。
「たくさん仲良くしたいっていう、さくらのお願い、俺に叶えさせてくれないか」
その言葉に、さくらの顔は一気に真っ赤に染まった。小狼の言う『仲良く』の意味を悟って、あわあわと慌てる。
「だ……っ、ダメなの!」
「……何が?」
両手を伸ばして突っぱねると、小狼はムッと眉根を寄せた。
「わ、私、お正月ごろごろしすぎて、ケロちゃんみたいに……、っていうのは言い過ぎだけど、少し丸くなっちゃったの!小狼くんをガッカリさせちゃう!」
「……うん?」
「だから、あの、その、見せられるようになるまで、ダイエット頑張るから……っ、それまで、仲良くするの、待ってもらってもいい?」
さくらの言葉に、小狼は目を瞬かせて、黙った。
しん、と気まずい沈黙のあと、口を開く。
「……そういう『仲良し』だけの意味で言ったんじゃ、なかったんだが」
「えっ……!?」
「まあ、そういう意味でももちろん、仲良くしたいんだが?」
「え?え??」
「……そうか。泊まりの約束も取り付ければよかったな」
そう言った小狼の顔が、すごく楽しそうで。すごく意地悪で。
ぼんっ、と。頭から湯気が出る程に赤面する。
ーーーさくらは、新年早々、自ら罠にかかってしまった。
お腹をすかせた狼に捕まって、甘く微笑まれて。盛大にときめいてしまったから、もう逃げられない。


「だ、だめなの!本当に、お腹とかだめなのーっ」
「大丈夫。多分、全然、問題ない。大丈夫だから」
「はうぅ、ちゃんと話聞いてない!小狼くん、聞いてない!」
「ちゃんと聞いてる。聞いてるから。……早く二人きりになりたい」
「ず、ずるいよぉ」
繋がれた手をほどけない時点で、負けは決まっている。
ご機嫌に笑う小狼に連れられて、さくらはマンションへの道を歩くのだった。

 

2021.1.3 Twitterより

**************************************************************************************

 

 

ポッキーの日!2020

 

「ねぇ二人とも!今日なんの日か知ってる?」
にょっ、と出てきた山崎に、談笑していた小狼とさくらは肩を震わせた。
「あっ、山崎くん!二人の邪魔しちゃだめでしょ!」
後ろからやってきた千春の突っ込みに、小狼とさくらは揃って顔を赤くする。
相変わらず初々しいお付き合いをしている二人を、友人達は微笑ましく見守っていた。
そんな、秋も深まる11月のある日。
山崎の突然の質問に、小狼とさくらは顔を見合わせた。
「今日は……11月11日か?」
「知ってる?小狼くん」
「いや……」
真剣に考える二人に、山崎はむずむずと焦れったさそうに揺れたあと、人差し指をたてて言った。
「今日はね、ポッキー&プリッツの日だよ!」
「……あ。嘘じゃないんだ」
千春の失礼な突っ込みに、山崎は「あはははは」と笑って、更に続けた。
「ところで、ポッキーゲームっていうのを知ってる?」
「ほぇ?」
「知らないな」
安心したのも束の間、更なる追撃に千春は慌てた。
ぽややんとしたさくらと、超真面目な小狼の、興味津々と言った顔を見て、どうにも居たたまれなくなる。
「じゃあ、李くんにこっそり教えてあげよう」
キラン、と眼光を光らせる山崎に、二人は不思議そうに首を傾げた。
なぜ小狼だけなのだろう。こそこそと耳打ちする光景を見つめて、さくらはますます気になった。
すると。
小狼の顔が真っ赤に染まったから、さくらは驚いた。
「え、どうしたの?」
「なっ、なんでもない!」
「でも、お顔真っ赤だよ?山崎くん、私にも教えて!」
「それは、李くんに任せるよ」
すっきりしない答えに、さくらは眉を八の字に下げて、小狼へと聞いた。
「小狼くん、ポッキーゲームってなぁに?」
「!!!」
「おしえて?」
『お願い』のポーズに、小狼は堪らなくなって、口許を抑えた。もう、耳まで真っ赤だ。
「お……」
「……お?」
「大人のゲームだった、から……。もう少し、大人になってから……」
「ほぇ?」
おかしな答えに、さくらは大きな目を瞬かせた。
小狼は、頼むからもうこれ以上聞かないでくれ、と言わんばかりに、顔を逸らす。
そんな二人を見て、千春は溜息をついた。
「山崎くん。李くんに何言ったの……?」
「僕は真実しか言わないよ!」
いつもね!と、胡散臭い笑みを浮かべる山崎の肩を、千春はパシッと叩いた。






ーーーそれから、どうなったかというと。


「ねぇねぇ、小狼くん」
「……なんだ?」
「ポッキーゲームって何?って、他の人にも聞いちゃダメ?」
「ぜっっっ……たいに、ダメだ!!!」
「はうぅ。気になるよぉ」
「……俺が、教えるから。もう少しだけ、待っててくれ」
真剣な顔で頼み込まれ、さくらは悩んだあと、笑顔で頷いた。
「うん、わかった!小狼くんが教えてくれるの、待ってる」
「……っ!」
「ポッキーゲーム、その時は二人で出来るかな?」
「らっ、来年……!!来年は、頑張るから!!」
「……?うん」
頑張るものなの?と、呑気に首を傾げるさくらなのでした。

 

2020.11.11 Twitterより

**************************************************************************************

 

 

ハグの日♡

 

「小狼くん!」
「さくら。どうし……、っ!?」
「えへへっ」
振り向いた小狼に、さくらは勢いよく抱きついた。
ぴったりと、宛がわれたように合わさるお互いの体。やわらかな感触と、ふわりと香るシャンプーの仄かな甘さに、小狼は頬を赤らめた。
「今日、なんの日か知ってる?」
「……え?今日、か?8月9日……?」
普通の日曜日だった気がするけれど、何か特別な記念日だっただろうか。
抱きついたまま、腕の中から顔をあげて、さくらは悩む小狼を見て笑った。
「答えは、ハグの日、だよ♡」
「ハグ?」
「うん!ぎゅ~~~ってする日!」
小狼は耳まで真っ赤になって、ぎゅうぎゅうに抱きつくさくらの背に、手を回した。
よく見ると。さくらの耳も、赤く染まっていた。
(……ああ。もしかして)
小狼は笑むと、抱き締める力を強くした。そうして、赤い耳元で囁く。
「……ぎゅー?」
すると、はしゃいでいたさくらが、小さく肩を震わせた。
「今日はずっと、ハグしてていい日なのか?」
「う、うん…….!」
さくらの了承を得て、小狼は動いた。
「ほぇ!?」
突然に抱き上げられて、さくらは驚いた。小狼は軽々とさくらを抱っこして、そのままリビングのソファに腰を下ろす。
小狼の膝の上に座る形になって、さくらは戸惑うように視線をさ迷わせた。
不器用に甘えるさくらに、小狼の胸がくすぐったくなる。
「……そんな口実なくても、いくらでもぎゅーしていいのに」
「っ!」
「俺はハグの日じゃなくたって、さくらと、……したい」
そう言うと、さくらは頬を真っ赤に染めて、泣きそうな顔になった。
恥ずかしい気持ちと、嬉しい気持ち。溢れんばかりの「好き」の気持ち。全部、言葉にはならなかったけれど。その代わりに、ぎゅっ、と抱きついた。
「お仕事、忙しいかなって思ったの」
「……ばか」
甘やかに響くその二文字に、さくらは涙目で笑った。先程よりも、体温が上がる。
抱き締める力が緩んで、二人は至近距離で見つめあった。
「私も、いつも小狼くんと、ぎゅーってしたい」
「うん」
再び近づく距離。まぶたがゆっくりと落ちて、吐息が触れる。
幸せなこの一瞬が、何度も続くようにと。願いながら、唇を寄せた。


「そういえば……。ハグの日だけど、キスしてよかった?」
「うぅ。小狼くんの意地悪……」

門限の終わりを告げる電話がかかってくるまで、ハグの日を堪能する二人なのでした。

 

2020.8.9 Twitterより

**************************************************************************************


 

七夕イチャイチャ話

 

「……七夕って、いつも雨だね」
「そうだな」
「大丈夫かなぁ……」
「何が?」
「だって今日は、織姫さんと彦星さんが一年ぶりに会うんだよ?」
「うん」
「この雨で天の川渡れないんじゃないかな。氾濫しちゃったりしたら大変なことに……」
「……さくら。天の川はどこにある?」
「ほぇ?お空……?」
「そう。雲の上だ。雨が降ってても関係ない」
「そっかぁ!」
「地上の目からも隠れられて、思う存分逢瀬を楽しんでるだろ」
「あっ!もしかして、その為に毎年雨を降らせてるのかな?」
「さぁ……?」
「ふふっ。彦星さんって、小狼くんみたい」
「……どういう意味」
「はぅぅ。ほっぺ、むにむにしないでよぅ」
「どうでもいいけど、この話はまだするのか?」
「ほぇ?」
「……そろそろ続きするぞ」


ベッドの上、小狼に組み敷かれて。今まさに愛し合おうかとしていた、その時。
さくらは、頭上の窓に降りつける雨を見て、今日が七夕だったことを思い出した。
一年に一度しか会えない恋人達。
かつての自分達と重ね合わせて、なんだか感傷的になっていたところだったーーーのだが。


「まっ、待って!」
「無理。もう、一年どころか一秒だって待てない」
「小狼く……っ、んん♡」
「……この状況で、他の男の名前を呼んだ罪は重いぞ」
「ほぇぇぇぇ!?」


7月7日、七夕。
天上の星にさえ嫉妬する恋人に、これでもかと愛される夜になるのでした。

 

2020.7.7 Twitterにて

**************************************************************************************

 

 

恋人の日2020

 

「李くん!木之本さん!今日はなんの日か知ってるかい?」
「ほぇ?」
「……知らない。何かの記念日か?」
人差し指をたてていつもの笑顔で、山崎が切り出した。いつもの事だが、あまりにも唐突だ。
山崎の話に、毎度食いついてしまう、興味津々な小狼とさくら。
そんな三人のもとに、左右に結んだ髪を揺らして、千春が駆けよってきた。
「あっ!山崎くん、またさくらちゃんと李くんにしょうもない嘘つこうとしてるでしょ!」
「えっ、そうなのか?」
「え……?嘘?」
((でも、ちょっと、気になる……))
小狼とさくらは、なんとも歯痒い表情でぐっと両の拳を握りしめた。
「嘘なんて言わないよ~!6月12日だよ?みんな知ってる、有名な日だよ!」
「はいはい」
「ヒントはね、ずばり李くんと木之本さんそのもので……」
「あっ!もうこんな時間!早く帰らなきゃ!じゃあね、さくらちゃん!李くん!」
千春は山崎の話に適当に相槌をうって、時計を見ながら慌ただしく去っていく。山崎も当然のように強制退場である。
残されたさくらと小狼は、残念そうな顔で、二人に手を振った。
「今日、なんの日なんだろ……?」
「ヒントは、俺とさくらだって……」
思案顔でぶつぶつと呟きながら、ふと隣にいる人に視線を移す。
二人の視線はパチッとかち合って、同時に顔を赤らめた。
さくらは「えへへ」と照れ笑いを浮かべ、小狼はその笑顔に耳まで顔を赤くする。
そわそわとしながら、またも視線をはずして、背を向けた。
(小狼くん、お顔赤い……わ、私も、かな?)
(う……。やばい。顔が熱い)
(小狼くんといっしょにいられるの、嬉しいよぉ)
(さくらとゆっくりできるの、久しぶりだな……)
視線が合えば、顔が熱くなって心臓がうるさくなる。
視線をそらせば、隣にいる人の気配や息遣いが気になって。顔が見たくて、仕方なくなる。
いっしょにいられるだけでーーー幸せな気持ちになる。


「あっ……!」
「わかった、かも!」
同時に、ピンときた。
小狼とさくらは振り返り、お互いを見つめて、笑顔でいった。
「「仲良しの日……!?」」






「大当たりですわね!」
「んん?惜しいんとちゃうか?今日は『恋人の日』なんやろ?」
手提げバッグから顔を出したケルベロスに、知世はにっこり笑って言った。
「さくらちゃんと李くんにとって『仲良し』は、それと同じですわ」
「なるほどな~?……ところで、あの二人いつまでああやってお見合いしとるつもりや?わいは腹減ったでー!」
「ふふ。もう少し、待ってみましょう?」
同じ答えを言い合ったあと、ハッと我に返って真っ赤になる、小狼とさくら。
知世は笑って、レンズ越しに仲睦まじい二人を見つめるのだった。

 

2020.5.22 Twitterより

**************************************************************************************

 

 

猫になっちゃった!?

 

なぜだかわからないけど。
今日、突然に。
「………」
「………」
「…….ごめん、さくら」
「……う、ううん?」
小狼くんが、猫になってしまった。



正確に言うと、猫耳と猫尻尾が生えていた。偽物じゃなくて本物だ。ぴくぴくと動いている。触ると、やわらかくて仄かにあったかい。
「ほえぇ……」
「……んっ」
「あっ、ごめんね。小狼くん。痛い?くすぐったい?」
「い、痛くは、ない。少しくすぐったい……けど、変な感じだ」
猫耳がやわらかくて、さくらはついつい触ってしまう。小狼の珍しい反応にも、なんだかいけない気持ちになってしまうような。ーーー『あれ』が、出てしまいそうな。
(だめ、だめ。小狼くんが大変な時なのに……。こらえなきゃ!)
さくらは内心で疼く本能と戦いながら、小狼の顎をなでていた。完全なる無意識行動だ。
小狼はさくらの手が気持ちいいのか、とろんとした顔でされるがままだった。が、ハッとして姿勢を正した。
「ご、ごめんな。今日、映画見に行きたいって言ってたのに。こんな姿じゃ、外に出られそうにない」
すまなそうに言う小狼の、猫耳も尻尾も、しゅんと下がる。
それを見て、さくらの胸が、きゅんと苦しくなった。
「そんなの……!全然平気だよ!」
「でも」
「映画より、にゃんこ小狼くんの方が大事だもん!」
さくらの迫力におされて、小狼は「そ、そうか」と、やや戸惑いつつも笑った。
さくらは速くなる動悸を感じながら、『いつもどおり』を意識して、聞いた。
「お耳と尻尾以外は、なにもない?不自由な事とか、体調とか」
「ああ。大丈夫だ」
「そっか。じゃあ映画の代わりに、私DVDとか借りてくるよ!いっしょに、お部屋で見よ?」
笑顔でそう言うと、小狼も嬉しそうに笑って頷いた。ふるふると小刻みに揺れる尻尾は、無意識だろうか。いつもよりも、懐っこく体を寄せてくるのも、気のせいだろうか。
さくらは、意識しないようにと思いながらも、猫になった小狼の一挙一動に動揺していた。
(はうぅ、可愛い……可愛いよぉ。我慢、できなくなっちゃう)
「じゃ、じゃあ。私、行ってくるね。小狼くん、留守番しててね」
「……わかった」
(そんな、寂しそうにしないでよぉ……!猫になると、小狼くんの気持ちがわかりやすくなるの、なんで??)
これが動物化の影響なのだろうか。素直に動く猫耳と尻尾のせいだろうか。
ギリギリの状態で、それでも平静を装わなければと頑張るさくらだったがーーー。
次の瞬間、思ってもいなかった事態が起きた。
コートを着込んで、玄関に向かって。見送る小狼の方を振り返って、「いってきます」を言おうとした、その時。
さくらの髪を結んだ、赤いリボンの先が、ふわりと宙を踊った。
「…….にゃっ」
「ーーー!」
小狼が素早く手を伸ばし、さくらのリボンを追いかけた。捕まえられずに、風圧でまた宙を舞った赤いリボンを、今度はもう片方の手で弾いた。
それを真剣な顔で繰り返したあと、小狼は我に返った。
「……っ、俺、今何を……!?」
「………」
「さくら、ごめん。顔とかに当たらなかっ」
「もう無理……っ」
顔を赤くするにゃんこ小狼に、さくらは思いきり抱きついた。
「はにゃぁーん♡♡小狼くん、可愛すぎるよぉ!」
「ーーー!?」
炸裂した可愛いさくらの『はにゃーん』と、突然の抱擁に、小狼の尻尾がぴーんと伸びる。顔を赤くして固まるにゃんこ小狼を見つめて、さくらは言った。
「もし、戻らなくても……私がずっと、小狼くんの傍にいるからね」
「……っ!さ、さくら」
涙ぐんだ赤い顔のさくらに、小狼はたまらずキスをした。そのままリビングに連れ帰ると、ソファに二人ダイブする。ふるふるとご機嫌に、小狼の尻尾が揺れる。
ハートが飛びそうな甘い空気の中で、『猫になるのも悪くない』なんて、思ってしまう小狼とさくらなのでした。

 


2020.2.22 Twitterより


*************************************************************************************************

 

 

恵方巻食べよう



 

「今年の方角は西南西!えっとー」
「西南西は……あっちの方だ」
「あっち!あっち見ながら、この恵方巻を食べるんだよ」
さくらはそう言って、大きな恵方巻のひとつを手に取った。買ってきたのは、海鮮恵方巻と、ツナときゅうりの恵方巻。小狼とさくらは先程ジャンケンをして、互いに食べる恵方巻を決めた。
何やら浮かれているように見えるのは、気のせいじゃない。さくらはこういう季節ごとのイベントが好きで、更に食いしん坊なのだ。わくわくとした横顔を見て、小狼は笑った。
「せーの、でいただきます!ね?」
「わかった」
「せーの」
「「いただきます」」
もぐもぐもぐ
もぐもぐもぐ
恵方巻はそれなりの大きさがあるから、食べ進めるのに時間がかかる。
しかしそこは男と女の差か、はたまた大口を開けて食べるのを恥ずかしがっているさくらが遅れをとったのか。気づけば小狼はあと四分の一、さくらはあと半分という差が出来ていた。
無言で食べ進めていた小狼は、食べるのをやめてさくらを見た。
ひたすらに食べ続けている。今年の吉の方角、西南西を見つめながら。
(……なんだろう。面白くない)
「さくら」
「……??」
「ツナ、美味しいか?」
西南西を向いた背中に話しかけると、さくらは驚いた顔で振り返った。
わかっている。恵方巻を食べる時は何も喋らない、口から離さないのがルールだ。先程もそれを確認したばかりだ。
「海鮮の方、食べたくないか?」
そう言って、残った海鮮の恵方巻を、さくらに差し出した。
もぐ……、と食べ途中のツナ恵方巻を飲み込んでから、さくらはへにゃりと笑った。
「もー……!小狼くんの食いしん坊さん!ツナの方も食べたかったら、最初に言ってくれればいいのに!」
「……そうだな」
「はい!交換ね」
そう言って、さくらは自分が食べていたツナときゅうりの恵方巻を差し出した。
小狼はそれにかぶりついて、もぐもぐと食べる。さくらは自分の手から食べる小狼の姿に思わず見惚れてしまった。
小狼は、「ん」と言って、さくらにも恵方巻を差し出す。さくらはドキドキしながら、それを小さな口で食べた。

恵方巻を食べる時は何も喋らない、口から離さないのがルール。願いをこめて、同じ方角を向いて食べれば、それが叶うという。
そう、わかってはいても。
(……さくらがこっちを向かないのが面白くないなんて、言えない)



「ふふっ。小狼くん、食いしん坊がケロちゃんに似てきたね」
「……っ」
実に不本意な事を言われて、小狼は飲んでいたお茶でむせるのだった。

 

 

2020.2.3 Twitterより

***********************************************************************************

 

 


夜更かし



 

 

「……小狼くん」
「ん?」
「起きてる?」
「起きてるよ」
瞑っていた目を開けると、薄闇の中でさくらのパッチリ開いた瞳とかち合った。「おやすみ」と言ってキスをして、互いに目を閉じてから、多分数分と経っていない。
小狼は真顔のまま、さくらの頬を撫でた。
「眠れないのか?」
「うん……。ちょっとだけ」
「まあ、この風と雨の音は気になるか」
雨風が強い夜だった。台風とまではいかないけれど、この時期には珍しい悪天候で。窓に叩きつけられる雨音や、ごうごうと吹きすさぶ風の音が絶え間なく響いていた。
さくらは小狼に身を寄せるようにして、大きな瞳で見つめた。
「明日、お仕事行くとき大丈夫かな」
「朝方には収まるらしいぞ」
「そっかぁ」
「………」
「………小狼くん、眠い?」
会話が止まると、ゆるやかな眠りがやってくる。閉じかけた瞼は、さくらの問いかけに反応して再び開いた。
今度は、なんだか寂しそうな顔をしている。さくらを見て、小狼は思わず笑った。
「やっぱり、眠れないのか」
「……今日、お昼寝しちゃったんだもん」
「なるほど」
「ごめんね。眠い?」
眠いか眠くないかと言われたら、どちらかと言えば前者だ。
だけど。
「眠くない」
「ほんと……?明日、お仕事辛くない?」
「そうしたら、俺もこっそり昼寝するから大丈夫だ」
冗談混じりに言うと、さくらが嬉しそうに笑った。
その顔を見たら、眠気なんか吹っ飛んでしまう。
小狼はさくらの体を腕の中に引き寄せて、ぎゅっと抱き締めた。布団の中であたためられた体温が、愛おしい。
「さくら、どうする?」
「ほぇ?」
「このままダラダラ話してるか……それとも。『運動』して、強制的に疲れさせるか」
「……!!」
どちらを選んでも、有意義な夜更かしだ。
笑顔で問いかける小狼に、さくらは目を大きく見開いて固まった。薄闇の中でも、その顔が真っ赤になってるだろう事はわかる。
「………じゃあ、えっと」


降り続く雨と、止まない風の音。さくらの答えを聞き逃さないように、小狼は耳を澄ませた。



(蛇足のおまけ)

「さくら・・・」
「・・・しゃおらん、くん、・・・んっ」
パジャマのボタンを上から外して、覗いた鎖骨にキスを落とす。触れると、さくらの体が小さく震えて、可愛く声が漏れる。ゆるやかに熱を上げられながら、小狼はさくらを気遣うように声をかけた。
「寒くないか?」
「・・・・・・」
「・・・・・さくら?」
反応がない。不思議に思って顔を上げて、小狼は目を丸くした。
すー、すー、と。目を閉じて、気持ちよさそうに眠っている。さくらの無垢で罪深い寝顔を見て、小狼はがっくりと肩を落とした。
「眠れたんなら、よかった。よかった・・・」
自分に言い聞かせるように繰り返して、上がった熱を冷まさねばと溜息をついた。
その時。
「ん・・・。しゃおらん、くん」
甘えるように名前を呼んで、手を伸ばす。体を寄せて、ぎゅっと抱き着いて。安心したように、へにゃりと笑んだ。
「~~~、凶悪すぎ・・・っ」

その日の夜更かしは、色々な意味で忘れられない夜になるのだった。

 

 

2020.1.29 Twitterより

***********************************************************************************

 

 

 

ポッキーの日!2019

 

 

 

11月11日。
ポッキーの日。
ーーーと、いうことは覚えている。
一年前の今日、さくらが教えてくれた。主に、どんなことをするのかも。
(……だからって、俺が買わなくてもよかったんじゃないか?)
コンビニ店員の「ありがとうございました」の笑顔に、なんとなく気まずくなる。普通にお菓子を買っただけなのに。
(……落ち着け。考えすぎだ。世の中の全員が、あんなことをするわけじゃないだろ。……多分)




『小狼くん。今日、11月11日は、なんの日か知ってる?』
無邪気な笑顔で聞いてきた、一年前の事を思い出す。
さくらの手には、赤いパッケージのチョコレート菓子があった。何よりのヒントだというのに、正解が出せなかった俺に、さくらは教えてくれた。
頬を赤く染めて、もじもじとしながら。一本のポッキーの端を咥えたまま、上目づかいで。
俺はドギマギと心臓を鳴らしながら、さくらの咥えているポッキーの反対側から食べ進めて、そしてーーー。
「……………」
道の途中で立ち止まり、思わず頭を抱えた。思い出すのは、甘いキス。チョコレートの甘さとさくらの甘さと、やわらかな唇。
ちら、と。手に持っているお菓子を見た。
(……今日、もしかしたら。そういう可能性があるかも、しれないよな)








放課後。
「小狼くんっ」
「……!!」
「いっしょに帰ろっ。今日、寒いねー」
マフラーを巻いて笑うさくらに、心臓が跳ねる。意識しすぎている事は、自分でもわかっていた。
なんとなく、帰り道の会話もぎこちない。そう思っているのは自分だけなのだろうか。さくらは笑顔で、今日授業であった事とか友達の事とかを話している。
『今日、なんの日かわかる?』
いつ聞かれるかと身構えていたが、気づいたらさくらの家が近づいてきていた。
(……あ、あれ?)
さくらが切り出す気配は、いっこうにない。
鞄の中で、いまかいまかと出番を待っているチョコレート菓子。
途端に、恥ずかしくなった。
「あっ。もう、おうち着いちゃったね。じゃあ、小狼くん。送ってくれてありがと!」
「……さくら」
「なぁに?」
首をかしげて問いかけるさくらの、唇に目が行く。
何を言えばいいのか。羞恥と寂しさと、まだ離れたくないという本音を、どう言えば伝わるだろう。
「………」
「小狼くん?」
「……チョコレート、食べるか?」
唐突にそう切り出すと、さくらは「ほぇ?」と不思議そうな顔をした。
鞄からとりだした、チョコレート菓子。それを、無言でさくらに渡す。
それを受け取って、およそ三秒。さくらの顔は、手に持った箱と同じくらい真っ赤に染まった。
箱で口許を隠して、上目遣いで。さくらはじっと見つめる。
真っ赤な顔は、きっと今の自分も負けていない。
「しゃ、小狼くん……」
「……なに?」
「あ、あの。お部屋に、寄っていきません……か?」
おずおずと誘ったさくらの唇は、きっとチョコレートよりも甘いだろう。
そんな想像をしながら、俺は小さく頷いた。







(おまけ)


甘い匂いに、目が覚めた。
薄暗い。自分の状況を思い出した。確かゲームをしていて、セーブ地点で力尽きて、一旦休憩しようと布団の中に入ったのだ。
「大丈夫………ケロちゃん………だから………寝てると思う」
ひそひそ、潜められた声に、ケルベロスはキランと目を光らせる。
体当たりの勢いで布団の中から飛び出して、叫んだ。
「チョコレートの匂いやーーー!!!」
「!!!」
部屋の中にいたのは。
主人であるさくらと、なぜか床に倒れている小狼。さくらは真っ赤な顔で、両手を前に突きだした姿勢で、口には食べかけのポッキーがあった。
「……?なんで小僧寝てんのや??」
「えっ……えっと、その」
「それよりも!二人だけで内緒でポッキー食べようとしたって無駄やで!わいも食べるーーー!!」


ご機嫌にはしゃいで、ケルベロスは数本を口に入れる。その甘さに、頬をとろけさせた。
さくらは、残った短いポッキーをさくさくと食べながら、赤い顔で沈黙する。
小狼が静かに怒りを募らせていたことに気づくことなく、ケルベロスはポッキーを堪能するのだった。

 

 

2019.11.11 Twitterより

 

***********************************************************************************

 

 

がおー!

 

 

 

知世の家で開催されるハロウィンパーティーに向けて、準備は着々と進んでいた。
知世は少し前から、ハロウィン用の衣装の製作に取りかかっているようだった。
「手伝おうか?」と聞いてみたら、知世はものすごく眩しい笑顔で「さくらちゃんには当日までお楽しみです!」と言った。
いつも以上に気合いの入っている知世を見て、さくらの胸もハロウィンというイベントへの期待感とドキドキが膨らんでいた。






「そうか。ランタンを作ってくれたのか。大変だったな」
「ううん!秋穂ちゃんが作り方を教えてくれたし、知世ちゃんとケロちゃんも手伝ってくれたから!楽しかったよ」
「俺も。お菓子、いろいろと作ってみるつもりだ」
休日に小狼とハロウィンの買い出しに出掛けた。知世のうちを飾り付けるのに必要なものを、小狼と二人で買い出しに来たのだ。
思わぬ二人きりのお出掛けに、さくらはそわそわとしていた。小狼と何気ない会話をするだけでも、ドキドキして顔が自然に笑ってしまう。
「小狼くんのお菓子、楽しみ!あと……小狼くんの衣装も。どんな仮装になるんだろうね?」
知世は小狼の衣装も手掛けると言っていた。自分もだけど、それ以上に隣にいる大好きな人がどんな装いになるのか、想像するだけで楽しい。
さくらが笑顔で言うと、小狼は少しだけ頬を赤らめて言った。
「……狼、かもしれない」
「えっ?狼さん?」
「ああ。偶然、大道寺が作ってるのを見たんだ。耳が特徴的だったから。もしかしたら……」
まだわからないけど、と。そう付け加えて、小狼は苦笑した。
(ほえぇぇぇ~!!小狼くんの狼さん……どんな風になるんだろ?耳?耳つけるの??はうぅ、今からドキドキしちゃうよぉ)
思いの外、動揺してしまう。そんなさくらの心中を知ってか知らずか、小狼が真剣な顔で言った。
「俺も、ハロウィンは知っていたけどイベントに参加するのは初めてなんだ。せっかくだから……仮装も、ちゃんと頑張りたいと思う」
「う、うん……!」
「それで。さくらに、協力してほしいんだ」
「……ほぇ?わ、私で出来る事があれば、なんでもするよ!」
小狼からの申し出に、さくらは快諾した。
赤い顔で、珍しく歯切れが悪い。そんな小狼の横顔を見ながら、さくらは未だうるさく鳴る胸を押さえた。
(協力って、なんだろう?)
小狼は足を止めて、しばし黙りこむ。まわりには自分達以外は誰もいないから、ひゅうひゅうと吹きすさぶ風の音しかない。
伝わる緊張感に、さくらもごくりと喉を鳴らした。
小狼はゆっくりと顔をあげると、両手を顔の位置まであげて、言った。
「が……、がおー!」
「………!??」
「お菓子くれないと、悪戯するぞ!」
赤い顔で恥ずかしそうにしながらも、はっきりとそう言った小狼に、さくらはフリーズした。
ずきゅん、と。心臓が変な音をたてた。
(は……、はにゃぁぁーーーん♡♡)
心の中で、たまらず叫んだ。封印したあの言葉が出てきてしまう程に、やられてしまった。
ふら、と思わず立ちくらみを覚えて、さくらはよろける。小狼の手が伸びて、さくらの手をつかんだ。
「大丈夫か?さくら」
「だっ……、だいじょぶ……」
「今の、どうだった?怖かったか?」
「こわ、怖かった……と、いうよりも、えっと」
自分の声が聞こえにくくなるくらいに、心臓が暴れている。
さくらの言葉に、小狼は眉をひそめて何やら思案し始めた。
(だってだって!小狼くんが、赤い顔で、が、がおーって……!)
さくらの許容量をすでに超えそうだった。頬に熱が集まる。やり場のない気持ちを持て余して、心の中でごろんごろんと転がって身悶えた。
「やっぱり怖くないか?照れがあるからダメなのか……」
「あ、あの、小狼くん。協力するのって……?」
「俺の練習を、さくらに見てほしかったんだ。こんな恥ずかしいこと、さくらにしか頼めなくて」
(~~~っ?!?小狼くん、真面目すぎるよ~!!)
でも、頼ってくれたのは嬉しい。すごく嬉しい。でもでもーーーこんなの、心臓に悪すぎる。
さぁっ、と風が吹いて、足元の落ち葉を転がした。
小狼は真剣な顔で、さくらへと近づく。射抜くような鋭い瞳に見つめられて、さくらは小さく肩を震わせた。
ゆっくりと、小狼の唇が開く。
「がおー。お菓子くれないと……お前を食べてしまうぞ」
「ーーー!」
低く、囁くように言われたその言葉に。
さくらは今度こそ、気を失いそうになった。





「小狼くん、あのね」
「ん?」
「ハロウィンの時……脅かすのは私だけにしてほしいの」
「え?」
「おねがい。……だめ?」
「っ!?だ、だめじゃない!……けど。なんで?」
「……!ないしょっ」


小狼の練習の成果が出たかどうかはーーーハロウィンパーティー当日のお楽しみ。

 

 

2019.10.27  ハピメモの「ガオー」ハロウィンカード取得記念に書いたものです。

***********************************************************************************

 

 

カミナリsummer

 

 

 

ーーーピカッ
「ほぇっ……」
ーーーーーーどーん!!
空に稲光が光った、少しあとに。大地を揺らすような衝撃が落ちた。余韻のように、ゴロゴロ……と鳴る真っ暗な空を見上げて、さくらは不安そうに眉を下げた。
「こら」
その時。後ろから声をかけられ、ぱっと振り返った。冷たいグラスを頬にくっつけられる。
「怖いなら、見ない方がいいんじゃないか?」
「逆だよ!光るのを見れば、心の準備が出来るもん!」
小狼がいれてくれた冷たいアイスティーを手に、窓から離れた。そうして、二人でソファに座る。
またも、空がピカッと光る。
「ひゃ……」
遅れてやって来る衝撃に、さくらは思わず隣にいる小狼に体を寄せた。グラスの中の氷が揺れる。
怖がるさくらを可愛いと思いながら、小狼はそのやわらかな頬をそっと撫でる。
「こ、こわいんじゃないよ?ちょっとだけ、ビックリするだけ」
「……ふーん?」
「あっ、小狼くん、信じてない!ホントだもん!」
小狼の含み笑いに、さくらは拗ねたように頬を膨らませる。
その頬をやわく摘ままれて、ふにふにと弄られて。優しい手付きに、怒りも持続しない。
さくらは頬を染めて、小狼を上目遣いに見つめた。
「ホントに、大丈夫なんだよ?停電とかは困るけど……。むしろ、少し好きかも」
「雷が?」
それは初耳だ。密かに驚く小狼に、さくらの頬はもっと赤く染まった。
「だって。……雷って、小狼くんの事、思い出すから」
「………え?」
「いつもさくらの事、助けてくれたから」
ーーー雷の力を操り世界を轟かせる、小狼の姿を思い出すから。
「だから、雷は前より好きに………あれ?小狼くん、どうしたの?」
頭を抱えて動かない小狼に、さくらは慌てる。
よく見ると、耳が真っ赤だ。
「……不意打ち禁止……」
「ほえ?」
ぽそりと落ちた言葉を聞こうとしたら、手にあったグラスを取られた。小狼はそれをテーブルに置くと、そのままソファへとさくらを押し倒した。
突然の口づけに、さくらは驚く。しかしすぐに、瞳はとろんととろけて。小狼の腕に身を任せる。


雷の音が、遠くなる。
小狼のくれる甘いキスに、何も考えられなくなって。幸せな体温に包まれて、さくらは微笑んだ。




(おまけ)

「……?さくら。どうした?お腹、おさえて」
「あっ……!こ、これは。昔、幼稚園の先生に言われて、それから癖になってて……」
「癖?」
「……笑わないでね?」
そう言って、さくらは小狼の耳にこそこそっと話した。
聞いた途端、小狼は堪えきれず吹き出した。さくらは顔を赤くして、「笑わないでって言ったのにー!」と怒る。
脱がしかけのブラウスの裾から手をいれて、小狼はお返しと言わんばかりに、さくらの耳元でささやいた。
「雷様だろうが誰だろうが、さくらの可愛いおへそはやらないから」
「……!!」
「とられないように、ちゃんと見張ってないとな」
ぺろりと覗いた赤い舌を見て、さくらは「言わなきゃよかった」と、心のなかでちょっぴり後悔するのでした。

 

 

2019.8.22 フォロワーさんの誕生日お祝いに捧げました!

***********************************************************************************

 

 

俺の可愛い恋人

 

 

「ね、ね!小狼くん!今日、なんの日か知ってる?」
さくらが目をキラキラさせて聞いてきた。前屈みになったせいで胸元が無防備な隙間を生んで、思わずそこに視線がいく。
ハッとして見ると、さくらが不思議そうな顔で首をかしげていた。小狼は、咳払いで誤魔化す。
「えっと……今日がなんの日かって?」
「そう!」
「いつもの語呂あわせのやつか……」
1月31日は、愛妻の日。11月22日は、いい夫婦の日。それ以外にも、たくさんある。
一時は、さくらに「今日はなんの日?」と聞かれて、何かの記念日だったか、何か忘れていたかと焦ったこともあった。軽いクイズのようなノリだとわかって、度々この遊びに付き合っている。
小狼は真面目な顔で考え込む。傍らでは、わくわくとした顔でさくらが答えを待っている。
今日は、6月12日。
(語呂あわせ……?適当なものが思い付かないな)
「語呂あわせじゃないんだよー」
「そうなのか?」
「うん。今回は難しいから……ヒントあげるね?」
そう言いながら、さくらは顔を赤らめた。小狼は「?」を浮かべて、その先を促した。
「ヒントは、私。さくらだよ」
「………??さくらが、ヒント?」
「うんっ」
甘えるように抱きついてきたさくらにぎゅっと抱擁を返しながら、小狼はムムムと眉根を寄せた。
(語呂あわせじゃなくて、ヒントがさくら……?これ、答え出るのか?)
思わぬ難問に頭を悩ませていた小狼だったが、同時に、ふにゅんと感じるやわらかさに思考を乱される。
「………ひとつ思い付いたけど」
「えっ、なぁに?」
「いや、これは絶対に不正解だ」
「教えて!」
さくらは上機嫌に笑うと、左耳を小狼へと向けた。
他に誰もいないのに、内緒話をする必要があるのか否か。この状況で、そんなことを考えること自体が野暮だ。
小狼はむず痒い気持ちを抱きながら、さくらの耳元でこそっと伝えた。
「………!?!~~~!!!小狼くんのばかっ!私、私……!そんなにちっちゃくないもん!!」
「そんなに怒らなくても……」
「ばか、ばかぁっ!ぜったいにおっきくなるんだから!」
「いて、いてて」
ぽかぽかと効かない拳を受けながら、小狼は(今のちっさいのが好きなんだけどな……)と思ったが、また怒らせてしまうといけないので口を閉じる。
機嫌を損ねてしまったが、体を離そうとはしない。ぎゅうぅと強めに抱きつきながら、さくらは涙目で怒っている。
これは早急になんとかしなければ。
(正解を出さないと)
小狼は、再び考える。ヒントはさくら。さくらと聞いて連想するものーーー。
「わかった」
「………なぁに?」
小狼の言葉に、さくらは顔をあげた。
頬を膨らませて「怒っている」のをアピールしながらも、次の答えを待っている。期待している。
小狼は大真面目な顔で言った。
「天使」
「………ほぇ?」
「今日は天使の日。……あれ、違うか?」
「ーーー!?」
さくらは漸く小狼の言葉を飲み込んで、耳まで真っ赤になった。
「あっ!天使だと、10月4日か……!?しまった、これも違うか。……あ、でも。語呂あわせは関係ないんだよな」
「~~~!!」
「天使じゃないなら……可愛いの日、か?愛らしい……、頑張りや………?あとは」
「も、もういいよぉ!答え、言うから!」
「いや、まだ出そうな気がする」
「ほえぇぇぇーーー!」


盛大に恥じらいながら、耳元で囁かれたその解答に。今度は二人揃って真っ赤になるのだった。

 

 


2019.6.12 恋人の日♡ Twitterより
***********************************************************************************

 

ちゅーしてるだけ

 

 

 

さくらとの、はじめてのキス。
―――失敗してしまった。

「……いっ、」
「いたぁ……」
頭の中で何百回とイメージしたのに。その通りにはいかなかった。やわらかそうな彼女の唇に触れようとして、勢いが付きすぎて歯をぶつけてしまったのだ。
涙目になったさくらの赤い顔を至近距離で見て、頭がショートしそうになった。失敗したというのに、今までにない近距離に心臓がばくばくと暴れた。
しかし、見惚れている場合ではないと気づいて、慌てて謝る。
「ご、ごめん!さくら。大丈夫か?」
「うん。だいじょぶ……。えへへ、恥ずかしい」
「……ごめん」
「小狼くんのせいじゃないよ!」
さくらはそう言ってくれたけれど、自分が情けなかった。
はじめてのキス。イメージも密かな練習も、本番直前に頭から吹っ飛んだ。頬を赤く染めて、長い睫毛を震わせて。自分からのキスを待つさくらの顔を見たら、何も考えられなくなった。
思い出すと体中の血が沸騰しそうなくらいの羞恥に見舞われたが、冷静に分析して反省し、次回に生かさなければならない。
(真正面から行ったら歯をぶつけるんだ。角度を考えて、もっとゆっくりしないとダメだ)
「小狼くん」
(動揺しないように、冷静に……って、出来るのか、俺。さくらとキス、なんて。考えただけで、今も……やばい。いや、弱気になるな)
さくらにとっても、はじめてのキスはきっと特別なもので。後々になっても、いい思い出にしたい筈だ。女の子なのだから、自分よりもその想いは強いだろう。期待に応えたい。
「小狼くん……」
次こそは。さくらと、完璧なキスを―――。
「小狼くんっ!」
「え!?」
「……もう。さっきから何度も呼んでるのにぃ」
ぷう、と頬を膨らませて拗ねるさくらの顔が、思った以上に近い。
あれ、まだこんな近距離にいたのかと、今更ながらに呆ける。そうだ。失敗したとはいえ、キスが出来るくらいの距離まで近づいたのだ。キスが失敗に終わったからって、今すぐ離れなければいけないという決まりはない。
ない―――のだけれど。
(ち……、近い、な)
吐息が触れるくらいに、近い。少しでも体を傾けたら、また触れてしまえる距離にいる。意識したら、ドキドキと心臓がうるさく鳴り始めた。つい先程、『冷静に』『動揺しない』と反省したのに、こんなに簡単に覆される。
「あの。さくら……?」
「……小狼くん。さっき、失敗しちゃったけど……。誰でも、失敗はする、よね?」
「あ、ああ」
「失敗したら、何回でも、練習……する、よね?」
「……!」
「ね?」
頬を赤くして恥じらいながらも、綺麗な瞳はジッと真っ直ぐに見つめる。『小狼くん』と、桃色の可愛い唇が自分の名前を呼ぶだけで、抗えない程の威力があった。
さくら自身にはそんなつもりは一切ないとわかっているけれど。これは間違いなく、誘われている。誘惑されている。そしてそれを、拒む道理はない。
「さ、さくら……!」
「はいっ」
「……もう一回。いや、さくらが嫌じゃなかったら……、たくさん、練習していいか?」
真剣な表情で見つめ、はっきりとした口調でそう問いかけると、さくらの顔が更に真っ赤に染まった。言葉が出ないらしく、ぎゅっと目を閉じて、こくこくと頷いた。
さくらの肩に手を置いて、ゆっくりと顔を近づけた。心臓の音が太鼓のようにけたたましく、体中に響いている。だけど、先程よりは少しだけ冷静になれた。
(焦るな。……落ち着けば、大丈夫だ。角度をつけて、鼻にも歯にも当たらないように気を付けて……、ゆっくり、)
―――ちゅ
「……!」
「……っ!」
今度は成功だ。いや、これが成功なのかは厳密にはわからない。仕方ない、初めてなのだから。
けれど、唇に伝わるやわらかな感触は、今までに味わった事がないもので。素直に感動していた。
(や、わらか……、すごい。キスって、こんなに気持ちいいのか)
さくらの肩を掴んでいた手が、自然に背中に回った。ぎゅっと抱き寄せて、触れた唇を少しだけ離した。
「……ふ、ぁ。しゃおら……、んっ」
だけど、すぐにまた唇を重ねる。さくらの目が驚きに開かれて、それからとろんと蕩けてまた閉じられるのを、間近で見た。先程よりも深く重ねて、さくらの唇のやわらかさを味わった。
胸を叩かれて、ふ、と我に返る。「あ」と気づいて、唇を離した。
「ふ、はぁっ、はぁ……、くるひ、よぉ……」
「さくら。大丈夫か?息継ぎしてなかったのか」
「ほぇ?息、つぎ?どうやってやるの?小狼くん」
涙目で呼吸するさくらを見ていたら、愛おしい気持ちが増した。先程落ち込んでいたのが嘘みたいに、心が高揚する。さくらの熱い頬を掌で撫でると、額をコツンと合わせた。
「……うまく息継ぎできるように、練習しよ」
「うん……。たくさん教えて?小狼くん」
ぞくぞくと、感じた事のない感情がこみ上げた。ともすれば急いてさくらを困らせてしまいそうな程に、気持ちが走る。『冷静に』―――と。ここまで何度も自分を戒めた言葉を、また心の中で唱える。
「……ん……ちゅ……ん、」
「……ちゅ、ん……。さくら……」
キスの合間に名前を呼ぶと、閉じていた瞼が開いて、碧色の宝石がこちらを見つめる。見つめあって、気持ちを確認して、また口づける。
もう、何度目になるだろう。途中までは数えていられたのに。いつの間にか夢中になって、どうでもよくなった。
(……どこまでが練習で、どこからが『はじめてのキス』になるんだ……?)
ふとそんな疑問が浮かぶ。さくらの中で、この一連のやり取りが『はじめて』の思い出になるのだろうか。
自分と同じように。思い出すだけで心が震えるような、そんな瞬間になっているだろうか。
「息継ぎ、うまく出来るようになったか?」
「……うん。…………でもね、あの。もう少しだけ、練習しよ……?」
―――しゃおらんくん。
濡れた唇が、自分の名前の形に動く。震える睫毛が、ゆっくりと落ちる。
キスを待つ天使を、ずっと見ていたい。そんな恥ずかしい事を思ってしまうくらいには、この恋にやられてしまっている。
これから先、何千回、何万回―――数え切れないくらいにするキスの一番最初は、今日この瞬間なのだと。
くすぐったい気持ちと愛おしい気持ちを胸に抱いて、さくらの唇に自分のそれを重ねた。

―――ちゅ。

 


おまけの二回目♡

 

(大丈夫……。大丈夫だ、落ち着け。あんなに練習したんだ)
(今度はちゃんと、息継ぎできるかな)
(う……っ。さくらって、なんでこんなに可愛いんだ)
(はうぅ、小狼くんの真剣な顔、格好いいよぉ……)
―――ドキドキドキドキ。
『初めて』のキスの日から、数日後。二回目のキスに挑む二人は、至近距離に近づくお互いの顔に見惚れて、そして―――。

カツン。
「い……っ、」
「……いたぁい」


―――完璧なキスには、まだまだほど遠いようです。

 

 

2019.4.16 Twitterより

***********************************************************************************

 

 

シングアソング

 

 

 

「映画が始まるまで、まだ時間があるな」
「そうだね。えっと……二時間くらいかなぁ」
「どこかで時間潰すか?」
小狼に言われて、さくらは周囲を見渡した。映画館の近くにはレストランやおしゃれなカフェが軒を連ねている。しかし、二人はつい先程昼食をとってしまったので、お腹に入る隙間がない。
ゆっくりとお茶をするのもいいかな、と。そう思った矢先、ある看板が目に入った。
(そういえば、小狼くんと一緒に行った事、ないかも)
うずうずと、好奇心と興味がわいた。さくらはダメもとで、看板を指さした。
「カラオケ、とか?」
「えっ……。う、歌か。あまり得意じゃないな」
「私も上手じゃないよ!でも、この前知世ちゃんや千春ちゃん達と行ったらね、すごく楽しかったの!だから、小狼くんとも一度入ってみたいなって……」
「俺と入ってもあまり楽しくないぞ、多分」
「そんな事ないよ!」
「歌える歌もそんなにないし」
「大丈夫!」
熱の入ったさくらの誘いに、小狼は驚きつつも、溜息ひとつで了解してくれた。
さくらは嬉しそうに手を合わせて、「やったぁ」と言った。そんなに喜んでくれるなら、まあいいか―――と。小狼は苦笑するのだった。



会員登録やら手続きやらで時間を要し、やっと部屋に通された時にはさくらはすっかり緊張してしまっていた。
小狼はというと、初めて入るカラオケボックスに興味津々といった感じで、部屋の中や置いてある機材をマジマジと観察している。
「狭いんだな」
「二人だからかなぁ。前にみんなで行った時は、もっと大きな部屋だったよ。小狼くん、何歌う?」
「……さくらからどうぞ」
「ほえぇ。わ、私から?」
小さめの個室なので、荷物を置いて二人で座ったらかなり近い距離になった。小狼は今度は、曲を選ぶさくらの横顔を真剣な顔で観察している。
妙な緊張感に心臓を鳴らしながら、さくらは前回にも歌った曲を入れるべく、機械を操作した。
(ほえぇぇぇ。今更だけど、小狼くんの前で歌うのは緊張するよ~~~!)
言い出したのは自分なのだから仕方ない。覚悟を決めて、さくらはマイクを握った。
小狼の視線を感じながらも、始まった曲に合わせて体を揺らす。



(……………なんだ、これは)
さくらが目の前で歌っている。仄かに頬を赤く染めて、小さく体を揺らして。握ったマイクから反響する声が、小狼の心臓を激しく揺らした。
―――可愛すぎる。
小狼は口元を手で覆った。思わず頬が緩んでしまうのを隠すためだ。一生懸命に歌うさくらが、可愛くて困る。照れくさいのに、一瞬も目が離せない。
少したどたどしい英語の歌詞。上がる語尾と、甘えるような言葉。
『catch you catch me ♪』―――歌詞の一部だというのに。好きと言って、と。自分が言われているようで心臓がうるさくなる。
さくらは、時折視線をこちらにやっては、顔を赤くする。その仕草がいじらしくて可愛らしくて、ますます小狼をドキドキさせた。
歌詞が流れる画面を必死に見て歌うさくらを、小狼は曲が終わるまでの時間ずっと、見つめていた。
曲が終わって、小狼は真顔で拍手をした。さくらはマイクを置くと、溶けるように机に突っ伏した。
「小狼くん、ずっとこっち見てるんだもん……緊張してうまく歌えないよぉ」
「あっ、ご、ごめん。つい………」
「はい!次は、小狼くんの番!」
半ば無理矢理に、小狼へとリモコンを渡した。ぎゅっ、と眉根が寄る。深く溜息をついたあと、真剣な表情で曲を探し始めた。
歌い終わったドキドキと、これから小狼の歌が聞けるのだという期待感で、さくらの心臓は忙しなく鳴っていた。
「本当に、あまり知らないんだ。でも一曲だけ、山崎に教えてもらった歌があって」
「山崎くん?」
「ああ。俺にぴったりだとか言って、覚えさせられた。誰にも聞かせた事がないから……、さくらが一番最初だ」
「え……っ、本当?」
「ああ。下手だけど笑うなよ」
小狼は、仏頂面でそう釘をさしたあと、リモコンを操作した。そして、マイクを握る。流れ出した前奏に、さくらはパチパチと拍手を送った。




(……………ほえぇぇぇぇぇ!!!)
小狼が目の前で歌っている。真剣な顔で。小学校の時よりも少し低くなった声で。直立不動で姿勢よく、視線はただ一点を見つめて。
―――こちらへと囁くように、恋の歌を歌う。
さくらは恥ずかしさから思わず顔を隠すけれど、目だけは小狼を見ていた。山崎から勧められたというその歌を、小狼は完璧に覚えていたのだろう、画面を流れる歌詞を見なくても全然余裕だった。
余裕じゃないのは、さくらの方だ。先程と同じように、小狼はさくらの顔をじっと見ながら、真剣な表情で歌を歌っている。
『気になるアイツ♪』―――それはいったい誰の事?聞かなくても、わかってしまう。
あまりにも歌詞が当てはまりすぎていて、自惚れてしまう。照れてしまう。嬉しくなってしまう。
(はうぅ………。小狼くんとカラオケって、すごくすごく、ドキドキしちゃうよぅ)



それから。
いろんな意味で消耗してしまった二人は、結局最初の一曲だけしか歌わなかった。
終了時間が迫る中、さくらはあることを思いつく。
「最後に、何か一緒に歌お?」
「いや、俺は……」
「私と小狼くんが知ってる歌、何かないかな。うーん……。あっ、そうだ!」


初めての、二人きりのカラオケボックス。
最後は、懐かしの友枝小学校校歌を二人で熱唱し、幕を閉じたのだった。

 

 

 

2019.4.10 Twitterより
***********************************************************************************

 

 

猫の日コネタ2019

 

 

日曜日の昼下がり。
のどかな芝生で、ひとりと一匹が向かい合っていた。

「にゃーん」
「!?……さ、さくら?」
「にゃあ?」
「えっ、そんな。さっきまでさくらがいたのに……!」
「にゃー」
すりすり、と人懐っこい仕草で体を寄せてくる。やわらかな毛並みは、さくらの髪の色に似ていて。見つめる碧の瞳も、大好きな彼女のそれと同じで。
小狼は、妙に感動した様子で子猫を抱き上げた。
「さくら……?さくら、なのか?」
「にゃあ」
「えっ、なんで……?なにかの魔法か?」
可愛い可愛い彼女が、可愛い可愛い子猫に変わった午後。
小狼が半信半疑で顔を近づけると、子猫が可愛く鳴いて、ぺろりと唇を舐めた。
「わっ……、さ、さくら、こんなところで……!」
「にゃあ、にゃあ~」
「まったく……しょうがないな。さくらの甘えん坊」
そう言いながら、小狼はお返しとばかりに頬を寄せた。
優しい手つきで、子猫を撫でる。
あたたかな小春日よりの陽気も手伝って、小狼はご機嫌だった。
どうしてこんな事態になっているか、とか。本当の本当にそうなのか、とか。気になることはあるが、深くは考えずに芝の上に寝転がった。
そうして。目の前にいる恋人を、これでもかという程の甘い瞳で、見つめる。
「あったかいな、さくら」
「にゃあ」




(ど、どうしよう。今出ていったら、小狼くんをがっかりさせちゃうかなぁ……??)

子猫と小狼の一連のやり取りを影から聞いていたさくら(本物)は、出ていくタイミングを完全に見失ってしまったのだった。








「小狼くん」
「……………」
「あの、ごめんね?」
「な、なんでさくらがあやまるんだ」
「がっかりさせちゃったかなって……」
「ちがう。がっかりとかじゃなくて……!いい。もう何も言うな」
「………」
「………」
「にゃあ?」
「!!」
「猫じゃないけど……。私も、猫ちゃんみたいに小狼くんに甘えていい?」
「………………ばか」




2019.2.22 Twitterより

***********************************************************************************







激甘テロリスト






乗り込んだ電車はほどほどに混んでいて、満員というほどでもないが座れる場所は少ない。その中で一人分の空席を見つけて、小狼がさくらの手を引いた。
「えっ、小狼くん、いいの?」
「着くまで時間かかるから、座って」
さくらは遠慮しながらも狭い隙間に体を納めた。さくらの目の前に小狼が立って、吊革を掴む。ほどなくして電車が走りだした。
さくらはそわそわしながら、小狼を見上げる。小狼は「ん?」と首をかしげた。どうした?と言外に問いかけられ、さくらは小声で言う。
「私、大丈夫だよ。立つよ。小狼くん、代わりに座って?」
「ばか。俺が座ってお前を立たせるわけないだろ」
「でも、昨日もお仕事で疲れてるでしょ?」
「いいから。おとなしく座ってなさい」
優しく諭されて、さくらはシュンとして黙る。
そうしているうちに次の駅に到着し、さらに沢山の人が乗車する。
さくらは口許に手をあてて、こそっと話しかけた。
「小狼くん」
「なに?」
「次の駅で交代しよ?」
「しない」
ぴしゃりと断ると、さくらはぷうと頬を膨らませた。その反応に、小狼も困った顔をする。
彼女を立たせて自分が座るなんて、小狼にとっては有り得ない選択肢だが、さくらはそうではないらしい。
自分だけ座ってるのが申し訳ないのと、あとは少し寂しいのと。
さくらの手が、小狼のコートの裾をきゅっと掴んだ。
「じゃあ、次の駅に着いたら、さくらも一緒に立つ」
「……さくら」
「だって。その方が、近くにいられるもん」
この距離感がもどかしい。もっと近くにいたい。
可愛いわがままで困らせる恋人を、小狼は愛おしそうに見つめた。
「ばか」と、口だけを動かして言った小狼の顔が優しかったので、さくらも頬を緩ませた。
そして、電車は次の駅に滑り込む。そのタイミングでさくらは席を立とうと思っていたが、ちょうど左隣の人が立ち上がった。あっ、と思っていると、右隣の人も席を立つ。
「ほえ?」
さくらはキョロキョロと左右を見た。小狼は、他の人が座るんじゃないかと周りを見るが、なぜか自分達の周囲から人が少なくなる。
さくらの顔がパアッと明るくなって、ぽんぽんと隣の席を叩く。小狼は苦笑して、さくらの隣に座った。
そしてまた、電車が動き出す。
「えへへ」
「なに?」
「ううん」
「…………さくらの甘えん坊」
「小狼くんにだけだもん」
「そうじゃなきゃ困る」
ぴったりと体をくっつけて、指を絡ませて手を繋ぐ。近くなった距離が嬉しくて。喜ぶさくらの顔が可愛くて、見つめる小狼の瞳が優しくて。
ただそれだけの事が、こんなにも幸せ。




(リア充爆発しろ)
(これ以上聞いてたら砂糖はきそう)
(ここだけ暑くない?)

ーーー休日の列車に突如出現した激甘テロリストは。
乗客に様々なダメージを与えていることにはちっとも気づかずに、笑顔で見つめ合うのだった。




2019.2.11 Twitterより
***********************************************************************************






いっしょに食べよ?




今日は日曜日。さくらは小狼のマンションでのんびり過ごしていた。
二人でソファに並んで座り、小狼は本を、さくらはお菓子と雑誌を手に持っていた。
雑誌を広げて、さくらはお菓子の箱を開封する。
読書をしていた小狼は、ふと香った甘い匂いに、隣を見た。
「ポッキー?」
「うん!小狼くんも食べる?」
「ありがとう」
さくらが差し出したポッキーを、ぱくりと口にいれる。
さくらは、自分の手からポッキーを食べる小狼という絵面になんだかドキドキした。少しずつ短くなって、さくらの指まで到達する。
小狼は、さくらの指先にやわく歯をたてた。
「ほえっ」
思わずさくらが手を引っ込めると、小狼は笑って先端まで口にいれた。もぐもぐと食べながら、「もう一本くれるか」と言う。
さくらは赤い顔で、ポッキーを差し出した。
ーーーぱらり。
小狼の目は、依然として本に向けられている。
読み始めて30分。その間も、さくらは時々、ポッキーを小狼の口許に差し出していた。
こちらを見ることなく、それは小狼の口の中に消えていく。
読んでいた雑誌に飽きてしまって、さくらの興味は隣にいる小狼に移っていた。
(小狼くん、ご本まだ読み終わらなさそう)
静かな部屋に、本が捲られる音が響く。
さくらは、こうして本を読む小狼の顔を見ているのも好きだった。
でも。少しだけでいいから、自分の方も見てほしい。そう思った。
(あ、そうだ)
さくらはその時、思い付いた。






差し出されたポッキー、チョコレートの匂いに反応して、小狼は口を開けた。
そのまま、食べ進める。
本はいいところに差し掛かっていて、視線は文字を追っていく。
さくさくさく
さくさくさく
(……………ん?)
違和感に気づいて、小狼は目をあげた。
そして、驚きに目を見開く。
「………っ!?!」
ーーーポキッ
「あ、折れちゃった」
さくらは残念そうに言うと、口の中にあるポッキーをもぐもぐと咀嚼した。
小狼は驚きながら、折れたポッキーの先端を見た。
驚くのも当然だ。
気づいたら、目の前にさくらがいて。視界いっぱいになるくらい、近づいていて。
さくらのピンクの唇が、自分と同じポッキーを咥えていたのだから。
おかげで、本の内容も一瞬で吹き飛んだ。
さくらは新しいポッキーを取り出すと、笑顔で聞いた。
「小狼くん、もう一本、食べる?」
「~~~っ」
「さくらといっしょに、ポッキー食べよ?」
真っ赤になったのち、小狼は本をぱたんと閉じて、頷いた。


先端と先端を咥えて。
スタートで一斉に食べはじめて。
さくさくさく
もぐもぐもぐ

ーーーさてさて。ポッキーゲームの結末は如何に?





2018.11.11 Twitterより

***********************************************************************************



 

 

愛妻の日小ネタ

 

 

玄関の扉を開けたらさくらがいた。
遅くなるから先に寝てて、と電話で言ったのだけれど。なぜか、玄関で三つ指をついて待っていた。
いつもとは違う光景に、小狼は些か戸惑いながらも、嬉しそうに顔を綻ばせる。
「ただいま」
「おかえり、小狼くん。お疲れ様!」
「遅くなってごめんな」
「ううん。それより、ねぇ小狼くん。……今日って、なんの日か分かる?」
にっこり。
笑顔で問いかけられて、小狼は固まった。
今日―――1月31日。一年で最初の月末。業務的には忙しく、そのせいでこんな時間まで働く羽目になった。
仕事方面に思考が傾きそうになって、「そうじゃない」と頭を振る。小狼は、眉根を寄せて難しい顔で考え込んだ。
(なんだ……?1月……月末……何か約束してた?)
(特別な記念日……。ダメだ、全然思いつかない)
(諦めるな、思い出せ!さくらが悲しむかもしれないんだぞ!)
顔を強張らせたまま硬直した旦那様を見上げ、さくらは「あれ?」と首を傾げる。
鬼気迫る空気を、呑気な声が吹き飛ばした。
「小狼くんでもわからない?簡単なクイズだよ?」
「……く、クイズ?」
「1月31日。ごろあわせで、ア・イ・サ・イ。答えは、愛妻の日でしたー♡」
―――がくつ
小狼はその場で崩れ落ち、膝をついて俯いた。
「あ、あれ?小狼くん?」
「……そういうことか。はぁ。焦った……」
「何が?クイズ、ちょっと難しかった?」
俯いて溜息をつく小狼の顔を、さくらは心配そうに覗き込んだ。
その顔を見たら、自然と笑みが浮かぶ。
ふ、と視線が絡まる。その瞳に囚われて、金縛りにあったように動けなくなった。
呆然とするさくらの頬に手をやって、小狼は優しくキスをした。
唇を甘く噛むと、さくらはくすぐったそうに身を捩る。
「っ!?小狼くん……?ここ、玄関」
「……今日は愛妻の日、だろ。だから、可愛い愛妻を、これでもかと愛でる日なんだよな?」
「え?そうなの?あれ??」
恥ずかしそうに頬を染めて、困ったように笑うさくらに、またキスをした。
玄関先で、靴も脱がずに何をやっているのだろう。ふと我に返りそうになるも、やわらかな唇の感触に引き戻される。


1月31日、愛妻の日。
日付が変わる前に、ありったけの愛を君に。




「小狼くん!今日はなんの日だかわかる?」
「!!!」
ーーーその後、小狼は。
日本の語呂合わせ文化に、度々頭を悩ませることになるのだった。

 

 

2018.1.31  Twitterより

 

***********************************************************************************

 

 

星に願いを

 

 

 



「つばき!お願い事、書けた?」
「うんっ」
さくらによく似た笑顔で、幼い子供が頷いた。手元にある短冊には、クレヨンで書かれたお願い事。
7月7日、七夕の夜。お星さまにお願い事をする。
小狼は、つばきが書いた短冊を見て笑った。
「これはまた、力作だな」
文字というには難解。絵としても解読は難しそうな。しかし、一生懸命なお願い事が、短冊いっぱいに書かれていた。
さくらと二人で覗きこんで、笑みをかわす。
窓際に飾った小さな笹にくくりつけよつとすると、つばきが小狼の服の裾をツンツンと引っ張った。
「ん?どうした、つばき」
「あのね……」
つばきはモジモジしながら、何か言いたそうに見つめる。傍にいるさくらも、娘の行動を不思議そうに見つめていた。
小狼が近づくと、つばきは内緒話のように耳元で囁く。話を聞いた小狼の目が、見開かれる。
今度は、さくらの方がそわそわしだした。
「……それは大丈夫だ」
「ほんと?」
小狼が笑って頭をなでると、つばきは嬉しそうに笑った。安心したのか、傍でそわそわしていたさくらへと、ぎゅうと抱きつく。
一人遊びをはじめたつばきを横目に、さくらは聞いた。
「つばき、何て言ったの?」
小狼は意味深に笑って、さくらを手招きする。
そうしてつばきと同じように、さくらの耳元でこっそり囁いた。
「サンタさんにしたお願いをお星さまにもしていいかって」
「それって……」
「ん。……そろそろ、叶えてやりたいところだけど。さくらは?」
艶っぽく言われて、さくらの顔は火を噴くくらいに赤くなった。
「うん……私も」


「さーさーのは、さーさらさぁー♪」
娘の可愛い歌声を聞きながら、小狼とさくらは照れくさそうに笑んで、こっそり、触れるだけのキスをした。



その一ヶ月後。
「ご懐妊です。おめでとうございます」
つばきのお願い事が無事に叶えられたことを知り、家族全員で喜ぶのでした。

 

 

2017.7.7 Twitterより


***********************************************************************************



猫の日超小ネタ

 


にゃー
「…ネコの声?あっ!小狼くん!木の上にネコが!」
「降りれなくなったのか」
「私、助けてくるね!」
「ばっ、ばか!スカートで登るな!はぁ……俺が行くからさくらは待ってて」
小狼は身軽に木に登ると、震えている子猫へと手を伸ばす。片手で捕まえて、下にいるさくらに渡した。
にゃーにゃー
「もう大丈夫だよ!よかったね。小狼くんに助けてもらえて」
さくらの腕の中で、子猫は返事をするようににゃあと鳴いた。
小狼は地上に降りて、さくらと子猫を見つめる。
嬉しそうに子猫を抱きしめるさくらと、さくらになついてゴロゴロと喉を鳴らす子猫。
微笑ましさに笑う小狼だったが、次の瞬間、ピキと固まる。
「ふふっ。可愛い。ちゅー」
にゃー。
---むっ。
小狼の眉根が寄る。気づいて、慌てて指でのばした。
(猫にヤキモチやくとか……馬鹿か俺は)
自己嫌悪に溜息をつくと、さくらが気付いてこちらを向いた。
「あっ……!ごめんね小狼くん!」
「え?」
「小狼くんが助けた猫さんなのに、私ばっかり抱いてて……」
「いや、そんな事は全然気にしてないけど」
「はい!小狼くん。……助けてくれてありがとニャー」
「……っ」
猫の真似をして、さくらは笑う。不意打ちの可愛さに、小狼は絶句した。
こちらに向けて抱かれた猫より、さくらに目がいってしまう。
(あー、もう…猫よりお前の方が可愛いって)
小狼は頬を染めて黙りこむ。さくらと子猫が、揃って首を傾げた。
「小狼くん?どうしたの?」
「…なんでもない」
にゃー
小狼とさくらの間で、子猫がご機嫌に鳴くのだった。



 

 

2016.2.2 ツイッターより

 

*************************************************************************************************

 


ポッキーゲーム

 


1111ポッキーの日!
ベタですがしゃおさくでポッキーゲーム妄想してみた
ルール/一本のポッキーを二人で咥えます。途中で折れたりしたら負け。
チョコ側をさくらが、もう片側を小狼が咥えて、さぁレッツシェアポッキー!



・・・・・・1分経過。両者一ミリも動きなし。お互いに赤い顔で微動だにしない。
熱でだんだんとチョコレートが溶けてきている事に気付くさくら。
(ほえぇ!このままだと、チョコで口がべちょべちょに・・・!?そんな恥ずかしい顔、小狼くんに見せられないよぉ)
焦ったさくら、チョコの部分だけでもと食べすすめ・・・




(さ、さくら・・・!?)
真っ赤な顔でポッキーを食べすすめるさくら。近づく二人の距離。
小狼は緊張でビスケットを噛み砕いてしまいそうになるのを堪えて、間近に迫ったさくらの顔を凝視した。
チョコの部分を食べ終えたら、残るはビスケットのみ。その距離およそ、3センチ?
(ち、ち・・・)
(近い・・・!)




その距離で固まる事、1分・・・
ビスケットもふやふやになる頃。目を閉じる事も出来ず、ただ相手を見つめる二人。
(こ、この近さはやばい・・・!このゲーム、どうやったら終わるんだ!?)
さくらの潤んだ目が、助けを求めているようで。焦るほどに、冷静な思考が溶けていく。
(・・・もう、どうにでもなれ!)




さくっ
一口でビスケットを食べて
ふに
と、やわらかな唇にゴール。
ふわりと香る、チョコレートの甘さ。


(・・・負けた)
(・・・負けちゃった)
ゲームのルールは知らないけれど。なんだか色んな意味で負けたような気がした、二人でしたとさ。







2015.11.11 ツイッターより

*************************************************************************************************



七夕

 





「今日は七夕なのにー!なんでお勉強なのー?」
「さくらが数学赤点だったからだろ」
「うぅ・・・・・どうしてテストがあるんだろう」
「ちゃんと勉強してたか確認するためだろ」
「なんで勉強しなきゃだめなの?」
「学生の義務だから」
「うぅぅ・・・・・・小狼くんの意地悪ー!」
「なんでだよ」


「・・・(呆)・・・勉強(義務)を怠ると、神様が怒るかもしれないぞ」
「えっ」
「そうしたら引き離されて、一年に一度しか会えなくなるかもな」
「・・・・・・っ!?!」


「いや、さくら。冗談だから」

それからさくらちゃんは半泣きでお勉強頑張るのでした。






2015.7.7 ツイッターより


*************************************************************************************************



 

ツンドラばかっぷる




「なぁ山崎」
「ん?なんだい李くん。そんなに険しい顔をして」
「日本の春は、こんなに寒かったか・・・?それとも俺がいない数年で気候が変わったのか」
「そうだよ。去年からツンドラさんっていう外来の特殊な気候帯が日本を占拠していてね。この時期は特に・・・」
「もういい。聞いた俺が馬鹿だった」

「小狼くん!大丈夫?」
「さくら。わざわざこっちの教室まで来たのか?」
「うん。今日、すごく寒くなっちゃったから・・・小狼くん、寒いの苦手でしょ?心配になって」
「し、心配される事じゃない。全然大丈夫だ」
「でも、ほら小学生の時とかすごく寒がってて」
「それは忘れてくれ!」
「ほえ?」

「そっか。大丈夫なら、これはいらなかったかなぁ」
「え?」
「ロッカーに置いてたカイロ。小狼くん喜ぶかなって思って・・・持ってきたの」
「・・・」(う、嬉しい)
「でも、大丈夫なら」
「い、いや!せっかくだから・・・もらっても」
「本当?じゃあ、はい!」
「・・・ありがとう、さくら」
「えへへ」
「でも俺がもらっていいのか?さくらの方が寒そうだ。女子は・・・スカートだし」
「大丈夫だよ!今日は秘密兵器があるもん!」
「秘密兵器?」
「うん!あったか毛糸パンツ・・・」
「・・・!?!」
「・・・っ!!!」
パンツという単語だけで動揺する思春期二人。

「でも、本当に大丈夫?」
「ああ。さくらのおかげですごくあったかい」
「うん・・・よかった」
「?どうかしたのか?」
「ううん!ただ・・・小狼くんが、寒いのは嫌だって、香港に帰っちゃったらどうしようって・・・心配になっちゃった」
「それで走ってきたのか?」
「うん」
「馬鹿だな」
「うん・・・」
「例え日本がツンドラ気候になったって、俺はもうどこにもいかない」
「ほえ?ツンドラ・・・?」
「だから、そんな心配しなくていいから」
「・・・うん!」


「なぁ山崎。この辺だけ、妙に不快な暑さなんだが」
「気のせいじゃないかな~?」




2015.冬 ツイッターより


*************************************************************************************************




真相




二人で電車で出掛けた、ある日の事。
小狼の様子が、おかしい。気づいたさくらは戸惑って、しかし聞けずにいた。
話しかけるといつもどおり優しく笑ってくれる。・・・だけど、小狼はこっちを見ない。隣で話していても、相槌を打つ時も、一向に見ない。
(どうしたんだろう・・・?)
心配は不安に変わる。さくらが、小狼の視線の先を何気なく見ると―――。
(・・・えぇぇぇぇ!?)
視線の先。ちょうど自分達の前の席に座っていたのは、綺麗なお姉さんだった。
さくらが衝撃を受けたのは、その艶めかしい胸元。大きく開いたトップスが、惜しげなくその豊満な胸を晒している。
さくらは、顔面蒼白になった。なぜなら、小狼が真顔で『その場所』を凝視しているように見えたからだ。
隣の大きな動揺に気づくことなく、小狼の視線は動かない。
さくらは涙を滲ませて、キッと小狼を睨んだ。
そして。両手で、半ば無理矢理に小狼の顔を自分の方に向けさせた。

「・・・いって!」
「ほえ?」
小狼の反応に、さくらは驚いた。
やっとこちらを向いたと思った、小狼の顔は。
(・・・あれ、涙目?小狼くんのこんな顔、初めて見た・・・!)
痛そうに片目を瞑って、小狼は戸惑うさくらの手を握った。
「小狼くん・・・どうしたの?」
「・・・・・・寝違えた」
その一言で、先程までの不可解な行動の理由がわかってしまった。
ちょうど止まった駅で、目の前に座っていた綺麗な女の人は降りて行った。けれど、小狼は全くそちらを気にする事はなかった。
真相を知って、さくらは恥ずかしくなった。少しでも疑ってしまった事を反省する。
「・・・言ってくれたらよかったのに」
「そんなの・・・格好悪い」
(ありゃ、小狼くん拗ねた?)
―――それにしても、寝相の良さそうな小狼くんが寝違えたって、なんか不思議。なんか・・・可愛い!
空いた車内。座席から立ち上がり、さくらは小狼の右隣から左隣に移動した。すす・・・と体を寄せて、バツが悪そうにする小狼を見上げる。
さくらは、にっこり笑って言った。

「今日はずっと小狼くんの左側にいるね!」







*************************************************************************************************





パシャ。







雨の音が酷くなった頃、玄関の方で音がした。携帯電話を握りしめて待っていたさくらは、その音にハッとして玄関へと急いだ。
「おかえり!大丈夫・・・じゃ、ないね」
「急に降られたから。さくら、タオルもらえるか?」
「うん!待っててね」
髪から足元までびしょ濡れになった小狼は、なんだか犬みたいだった。思わずキュンとしてしまって、さくらはふるふると首を振る。タオルを渡して、言った。
「迎えにいこうか?ってメールしたんだけど。気づかなかったんだね」
「あー・・・、ごめん。鞄に入れたままだ」
さくらの手に握られたままの携帯電話を見て、小狼は苦笑した。すっかり色が変わる程に濡れてしまった小狼の服。このままでは風邪をひいてしまう。さくらが
お風呂に入ることを勧めると、小狼も頷いた。
「じゃあ、私お風呂沸かしてくるね!」
そう言った瞬間。さくらは固まった。
「・・・?どうした、さくら」
小狼は濡れたセーターを頭から脱いだ状態で、不思議そうにさくらを見た。
濡れ髪のあどけない表情と、引き締まった上半身がさくらの視界に突然に飛び込んできて―――。
気づいたら、手にあった携帯電話を起動していた。
―――パシャ。
「・・・!?今、写真撮ったのか?」
「ほ、ほぇ?えっと・・・」
そう言いながら、さくらは指先で更に操作する。
「今、保存した!?」
「えっと、えっと・・・」
「さ、さくら?大丈夫か?顔が赤いぞ!」
「ご、ごめん!自分で見る用だから!」
「自分で、って・・・!」
「わ、私、お風呂わかすね!」
「あっ、こら、さくら!」
逃げるように風呂場に入り、さくらは保存した写真を開いた。
「・・・・・・えへへ」
ニヤけた顔で、さくらは飽きもせず画面の中の小狼を見つめる。

「本物がここにいるってのに・・・」
小狼は呟いて、クシュン、とくしゃみをした。







 




気に入っていただけたら、ポチリとどうぞ!


戻る