※本誌最新号(3月号)のお話から、妄想を広げたお話です。

※がっつりネタバレしています!!!

 

 

 



 

 

 

 

 

大好きなひと

 

 

 

 

 

 

 

春のあたたかな陽が、生い茂る葉の合間から降り注ぐ。
並んで歩く道は、いつもの登下校と全然違う。その事に今更ドキドキして、浮足立つ気持ちと緊張が、心地よく心臓を揺らす。
「重そうだな。持つよ」
「!・・・ううん、大丈夫!小狼くんも、疲れてない?」
「俺は全然。このあたりは来たことがなかったから、新鮮だ」
連れ立って歩く小狼は、辺りを興味深く見渡したあと、さくらへと笑顔を見せた。それを受けて、さくらの顔にも堪えきれない笑みが浮かぶ。
今日は、約束の日曜日。
少し前に二人でおでかけをした時は、途中カードが出現したことにより、さくらの作ったお弁当が最後まで食べられないというハプニングに見舞われた。今日は、そのリベンジ。今度こそ、最後まで食べてもらえるようにと。さくらは、朝早くから弁当作りにいそしんでいた。
そんな時、一本の電話が入った。電話の相手は、さくらの母の従妹で親友の知世の母親でもある、園美だった。さくらにとって曾祖父に当たる人が、どうしても会いたいという。
小狼に事情を話すと、「大切な用なんだろう。気にするな」と了承してくれた。
おでかけの予定がなくなってしまうのは悲しい。けれど、小狼はここ友枝町に帰ってきてくれた。いつでも会えるし、何回でもやり直しが出来るのだから。そう言い聞かせていたさくらだったが、事態は思わぬ展開へと進んだ。
「さくら」
「なぁに?」
「・・・おかしいところとか、ないか?今のうちに言ってもらえると、その、助かる」
チャイムをおそうとしたタイミングでそう言われて、さくらは瞬いた。小狼は、緊張した面持ちで自分の姿恰好を見下ろす。さくらは、頬に熱が集まるのを感じた。
「大丈夫!すごく格好いい・・・よ?」
「!そ、そういう事じゃなくて・・・。でも、まあいいか」
ふしゅー、と湯気が出るくらいに真っ赤になって、黙り込む。胸元のタイは、お揃いのストライプ。以前に知世がくれたものだった。少し照れくさいけれど、嬉しい。
二人は互いに顔を合わせて、小さく笑った。
少し緊張しながら、チャイムをおした。迎えてくれた曾祖父の変わらない笑顔に、さくらはホッとして。緊張は解けて、笑顔になった。
「やあ、こんにちは」
「こんにちは!」
曾祖父の視線が、自分の隣に移ったのを感じて、さくらの心臓がまたも動悸をぶり返す。多分、今また、自分の顔は真っ赤になっているのだろう。
「李小狼くんです。同じ学校で同じ学年で、クラスも隣で。わたしの・・・。・・・・・」
そこから先の言葉が、出ない。
(こんな風に小狼くんを紹介するの、初めてだよぉ)
恥ずかしさと、緊張と。味わった事のない気持ちで、さくらの胸がいっぱいになった。しばしの無言のあと、隣にいた小狼が一歩前に出て、よく通る声で言った。
「李小狼です。お招き、ありがとうございます」
その堂々とした振る舞いと澱みない声に、さくらは思わず見惚れる。
凛々しい横顔は、あの頃と少しも変わらない。だけど、あの頃よりも少し大人になって―――男の子になった。
(~~~っ)
きゅううう、と。さくらの胸が、苦しくなった。
小狼と曾祖父はにこやかに挨拶をして、握手をする。さくらはハッとして、気を取り直すように笑顔を作った。
「お弁当作ってきたんです!」
さくらは、朝から用意していたお弁当を広げて見せた。遠慮する曾祖父に、どうぞ、と勧める。小狼が作ってきた手作りのお菓子に目が行くと、さくらはすかさず小狼の料理上手を褒めた。
「小狼くん、お料理上手なんです!」
「いや、そんなことは・・・」
「あるよ!」
「いや!こっちのおかずの方がうまそうだ!」
すると、小狼は逆にさくらのお弁当を褒めた。つい意地になって、「小狼くんの方が」「さくらの方が」と、張り合う。
(あ。なんか、こんな顔の小狼くんを見るのも、久しぶりな気がする・・・)
出会った頃の、いわゆる『ライバル』だった頃のやり取りを思い出して、ほわりと心があたたかくなる。
曾祖父に笑われて、小狼とさくらは揃って顔を赤くした。
ふと目があって、同時に笑う。こうやって、隣にいられる『今』が、なによりも嬉しい。
(でも・・・)
さくらは、少しだけ後悔していた。








それから。庭でお弁当を広げて、お腹いっぱい食べた。曾祖父はどれも美味しい美味しいと褒めてくれて、終始笑顔だった。さくらも嬉しくなって、来てよかった、と心から思えた。
「お茶を淹れてきます。キッチン、お借りしてもいいですか?」
小狼がそう言って席を立ったので、さくらも一緒に手伝う事にした。二人でお屋敷の中の大きなキッチンに入り、ティーセットを用意してお湯を沸かす。
小狼が持参した茶葉を取りだすと、ふわりと、いい香りがした。
「小狼くん。今日、付き合ってくれてありがとう。お祖父さん、すごく楽しそうだった」
「俺の方こそ、連れてきてくれてありがとう。さくらの大好きなお祖父さんに会えて、嬉しかった」
くすぐったそうな笑顔でそう言う小狼に、さくらの心臓がまたもドキドキと鳴り始める。
その笑顔を、ずっと見ていたい。思わず、じ・・・、と見つめると、小狼の頬が赤らんだ。つられて、さくらの頬にも赤みがさす。無言が続く中、沸かしたポットから湯気が出始める。
さくらは両手の指を忙しなく絡ませながら、胸に募る想いをどうすればいいのか、迷っていた。
(どうして言えなかったんだろう・・・。ちゃんと、言いたい。だって)
―――ぴー!
「っ!!」
「お湯、沸いたな」
キッチンに響き渡った甲高い音に、意識が現実へと引き戻される。小狼は落ち着いた所作でポットにお湯を注ぎ、冷めないようにとティーコゼーをかぶせた。
「さくらは、ティーカップを持ってきてくれるか?」
「う、うん!」
小狼に言われたとおり、三人分のティーカップをトレイに乗せて運ぶ。庭では曾祖父が待っていて、戻ってきた二人を見て顔を綻ばせる。
「お待たせしました」
「いい香りだ。紅茶かね?」
「はい。桜の葉が入っているんです。お口にあうといいのですが」
小狼はそう言って、慣れた手つきでティーカップへとお茶を注いだ。ふわりと、甘く優しく香る―――桜。
その瞬間、さくらは堪らない気持ちになった。きゅ、と唇を結ぶと、曾祖父の前へと進み出た。
「お祖父さん・・・!あの、さっき、言えなかった事・・・っ」
言葉が途中で止まる。さくらは、すぅ、はぁ、とゆっくり深呼吸をしたのち、真剣な顔で言った。
「小狼くんは、同じ学校で隣のクラスで、私の・・・一番、好きな人なんです。大好きな人なんです!」
淹れたての桜紅茶を、今まさに手渡そうとしていた小狼の手が、震えた。曾祖父は驚いた顔で固まって、しかし手はしっかりと小狼からティーカップを受け取った。
呆けていた顔を、きゅっと引き締めると、小狼も姿勢を正した。さくらの隣に寄り添うようにして、言った。
「俺も、です。さくらを、大切に思ってます。・・・大好きです」
「っ!!」
小狼からの思わぬ返答に、さくらの顔がボンッと真っ赤になった。隣に並んで、こちらへと真摯に伝える二人を見て、曾祖父は目元をゆるませる。
「ありがとう。よくわかった。二人は本当に、『なかよし』さんだ」
そこで、さくらの羞恥心が限界を突破した。
「わ、私・・・!お茶のお代わり・・・!淹れてきます!」
「あっ、さくら。まだお茶はたくさん・・・!」
たっぷり入ったティーポットを手に、さくらはキッチンの方へと走っていった。小狼も、慌ててそれを追いかける。
再び一人になった曾祖父は、ふ、と息を抜いた。そうして、桜の香りがする紅茶を一口飲んで、ぽつりと呟いた。
「こういう瞬間は、いくつになっても寂しいものだな・・・」
嬉しさと、少しの寂しさを。優しい香りが、慰めてくれるような気がした。その顔には、穏やかな笑みが浮かんでいた。








「さくら・・・!」
「!」
追いかけてきた小狼に手を掴まれ、さくらは我に返る。恥ずかしさから、つい逃げてきてしまった。
呆然とするさくらの手から、小狼はティーポットを取ってテーブルに置いた。そうして、心配そうにさくらの顔を覗き込む。
「だ、大丈夫・・・。えっと・・・、急に、物凄く恥ずかしくなっちゃったの」
「そうか。・・・うん。俺も、今になって心臓の音が」
「私も」
二人は自分の胸に手をやって、落ち着かせるように深呼吸する。図らずもその動作がぴったりと重なって、お互いの顔を見合った。小さく笑みが零れる。
緊張が解けるのと同時に、気持ちが高まった。
さくらは、小狼へと近づく。小狼もまた、さくらへと近づいた。二人の距離はゼロになって。おもむろに手を伸ばし、ぎゅっと抱き合った。
「小狼くん。大好き・・・。大好き」
「・・・俺もだ」
「好き。大好き。すごく、すごーく、大好き!」
「そ、そんなに言わなくても。充分伝わってる・・・」
かぁぁ、と赤くなる頬。久しぶりに、小狼の赤面を見た気がした。さくらは嬉しくなって、至近距離で笑う。
「いっぱい言いたいの。たくさんの人に言いたい。私の一番好きな人。小狼くんの事が、大好きだって」
「俺もだ。・・・さくらが、大好きだ」
触れる温度。抱きしめる手の強さ。交わす笑顔と、たくさんの言葉で。あなたに伝えたい。
―――こんなにも、大好きなんだって事。
「戻ろう。お茶が冷める前に」
「うん!」


うららかな午後。仄かに赤らんだ顔と、幸せな笑顔。桜の優しい香りが、記憶へと刻まれる。
いつまでも、ずっと。







 

END


 

 

 

本誌の爆弾的燃料投下により、書かずにはいられなかった!!最高に可愛かったし、しゃおさく結婚間近では・・・!?と思うような展開で、もう(涙)涙なしでは語れない(´;ω;`)管理人の妄想を読んでいただき、ありがとうございました!

 

 


2018.2.3 了

 

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